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ドキュメンタリー映画「キスメット」ーセルビア人とアルバニア人の若い女性たちが共同製作ー

ドキュメンタリー映画「キスメット」ーセルビア人とアルバニア人の若い女性たちが共同製作ー

みなさんは、かつて「ヨーロッパの火薬庫」と呼ばれていたバルカン地域に位置するセルビアとアルバニア両国の若い女性たちが、自身の人生を自由に選択することができていない深刻な社会問題に直面していることを知っているだろうか?

そして、セルビアとアルバニア両国の民族ーセルビア人とアルバニア人ーが、これまでに両民族が歩んできた歴史や、政治家や民族主義者たちが主導するプロパガンダなどによって、互いに一度も交流したことがないにも関わらず、憎悪を募らせてしまっていることを知っているだろうか?

 

どちらの国も民族も、多くの日本人に馴染みのない国であることは間違いない。

しかしながら、今回の記事で紹介する短編ドキュメンタリー映画「キスメット」を通じて、セルビアとアルバニア両国に住む若い女性たちが直面している社会問題や、セルビア人とアルバニア人の両民族間に存在する民族対立などの社会の裏側を知ることができるはずだ。

 

その一方で、上述した社会の裏側のように暗い話だけではなく、社会をより良い方向へ導いていこうとする未来志向の民間活動の存在も映画内では描写されている。

「両国の若い女性たちが上記2点の問題をどのように捉えているのか?」、「どのようにして解決に導いていこうとしているのか?」、「両民族の若者間での相互交流を促進する意味は何なのか?」といった側面を映し出す映画であることからも、セルビアとアルバニア国際関係における明るい材料を見出すこともできる。

 

セルビア人とアルバニア人の若い女性たちが共同で製作した社会派ドキュメンタリー映画「キスメット」をぜひ多くの人に視聴してほしいという願いから、今回の記事では「キスメット」が伝えたい内容を分かりやすくまとめたいと思う。

ちなみに、このドキュメンタリー映画「キスメット」は英語、セルビア語、アルバニア語の3言語が入り交じる多言語作品であるが、すべて英語字幕が付いている。また、本編はYoutubeにて無料で視聴することができる(リンクは上動画)。

※以下の記事ではネタバレも含まれますので、ご注意ください。

 

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映画「キスメット」の概要

映画「キスメット」の概要

出典:映画「キスメット」の一場面より

映画の題名となっている「キスメット Kismet」とは、アラビア語由来のトルコ語で「運命」を意味する言葉である。

映画「キスメット」は、セルビアとアルバニア出身の若い女性たちによって製作されたドキュメンタリー映画で、両国出身の若い女性たち一人ひとりが故郷や自身が属する社会で実際に体験してきたことを話してくれるノンフィクション作品である。

 

製作者であるセルビアとアルバニア出身の若い女性たちは、両国の若者たちで協力し、男女平等の社会を実現することによって、長続きする両国間の平和と社会的発展を達成することができると固く信じている。

30分弱の短編ドキュメンタリー映画「キスメット」は、異なる環境で生まれ育ち、異なる体験をしてきた10人の若い女性たちの生活に焦点を当てている。彼女たちの生活に共通していることは、家父長制が依然として強い社会構造の中で生活していることだ。

 

映画「キスメット」は、2つの相反する社会構造を行ったり来たりする;バルカン諸国に位置するセルビアとアルバニア両国における都市部と農村部、伝統社会とデジタル社会、社会からの圧力と技術革新、これまでに経験してきた話と新たな出会い。

 

そして、これらの相反する社会構造を描写することで、視聴者に次の質問を投げかける。

異なる国家や社会構造で生活している私たちは、どれくらい類似しているのだろうか?

セルビア人がアルバニア語を勉強しているはなぜか?

アルバニア人女性がセルビア人男性と結婚しているのはなぜか?

誰が「敵対者」で、誰が「友人」なのか?

若い女性たちが一緒にサッカーの親善試合を行ったり、少数の熱意溢れる若い女性たちがウィキペディア上の記事作成を共同執筆したりする活動を通じて、2つの国家ーセルビアとアルバニアーにかかる友好の橋は強固なものになるのか?

2つの国・2つの民族が異なる社会に住んでいても、同じように直面している試練に対して、解決する方法はなんなのか?

若い女性たちは、「女性」の役割として社会から期待されている「キスメット(意味:運命)」を受け入れるべきなのか?

それとも、一向に落ち着くことのない地域で、両国の和解を促す対話を積極的に促していく「あるべき姿の強い戦士」となるべきか?

 

映画「キスメット」の注目するポイント

映画「キスメット」の注目するポイント

出典:映画「キスメット」の一場面より

この映画「キスメット」に登場する10人の若い女性たちは、セルビアとアルバニアの都市部と農村部の異なる街や村に住み、様々な学歴を保持していたり、異なる分野の職業や活動に従事している。

 

セルビアの首都ベオグラードや北部の都市ノヴィ・サド、アルバニアの首都ティラナやエルバサンなどの都市部の女性たちや、セルビア南部のブルス村の農村部、アルバニア中部のブレルの小都市に住む女性たち。

詩歌、フェミニスト、ITスペシャリスト、ゲーマー、ユーチューバー、ITエンジニア、図書館の司書、看護学科生、アルバニア語を学ぶセルビア人の学生、宝石ショップのオーナー、TVジャーナリスト、セルビア人男性と結婚したアルバニア人の女性たち。

 

しかしながら、彼女たちに共通していることは「社会(女性)を変えたい」そして「国家と民族の対立を和解させたい」という強い思いから声を発してることだ。

 

  • 「女性」に求められる社会的役割とは?
  • 「女性」だから向いていない職業とはあるのか?
  • 家父長制社会を変えようとする取り組み
  • セルビア人とアルバニア人との民族対立
  • セルビア人とアルバニア人の間で実現する相互交流
  • 相互交流がもたらすものは?

 

これら6つのポイントを中心にして、映画「キスメット」が伝えたい内容を簡単にまとめたい。

 

「女性」に求められる社会的役割とは?

「女性」に求められる社会的役割とは?

出典:映画「キスメット」の一場面より

主婦として、母親として、または伝統的な女性像としての役割以上のことを女性が求めたことによって、これまでに差別的待遇を何度受けてきたのだろうか?

社会的・文化的圧力によって女性に求められ、割り当てられる性役割のもの以上を女性たちが欲して、それに応じた当たり前で通常の熱意として真摯に受け止められたことは何度あっただろうか?

あなたがキャリアを追い求め続けると、結婚することは一生できないコンピューターは女性向けではない台所に戻って掃除をしろ女性は、母親にならない限り女性ではない

強制力と暴力を使って女性を搾取することが当たり前で、見合い結婚がまだ存在し、女性は「虚弱で、繊細で、感情的な生き物」だから当てにならず、政治的・社会的環境に従事することに向いていないと認識されている社会環境では、多くの女性たちは懸命に立ち上がって、胸の内に秘めたものを実現しようしている。

こうした女性たちは努力し、成功した。

※翻訳者:執筆者
出典:映画「キスメット」よりナレーションの一部を抜粋

 

映画「キスメット」で焦点が当てられているセルビアとアルバニアだけでなく、バルカン地域は全体的に家父長制社会が色濃く残っている。例を挙げるならば、「男性は外に出て仕事に従事し、女性は家で家事や育児に従事するべき」という考え方は典型的だ。

近年になって都市部では西欧文化圏の価値観から影響を受けた若者たちの間で、性役割に関係なく伝統的な家庭内の役割を打ち壊そうとしている新たな形も見受けられる。

その一方で、都市部を離れた小都市や農村部では、依然として伝統的な社会が女性に求める役割を当然のこととして捉えている人が多くいることも現実だ。

 

ー政府機関で働くITスペシャリストの女性の体験ー

将来の夢としてITテクノロジー業界で働きたいことを母親に伝えたときに、看護師である母親からは以下のような返答があった。

「あなたは学校でいい成績を残しているわよね。看護学科に入学して、医学を勉強したらどう?」と言われた。

※翻訳者:執筆者
出典:映画「キスメット」の一場面

 

ーアルバニアで宝石ショップを営む女性の体験ー

「また大学に通って学べることを前に約束したこと覚えてる?私は今大学に通って勉強したいの」と夫に伝えると、以下のような返答があった。

考えてごらん、学業と仕事を両立することは大変だよ。そして、育児だってあるんだ。どうやってすべてを上手くやっていくんだ?

※翻訳者:執筆者
出典:映画「キスメット」の一場面

 

ーアルバニアでTVジャーナリストとして働く女性の体験

ブレルのような小都市に住むすべての女性たちは、偏見を持たれている。人々は街中でお洒落な服を着た女性を見かけると、悪いことだと捉えてしまう。また、女性が仕事で上の役職に就いていたり、テレビ局のような仕事場に従事しているときもね。問題点として、人々はこうした女性たちのことを「不道徳な行為」として非難しまいがちだ。

※翻訳者:執筆者
出典:映画「キスメット」の一場面

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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