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【歌詞解説】国外へ移住したバルカン人の気持ちをありのまま描くドゥビオザ・コレクティブ

【歌詞解説】国外へ移住したバルカン人の気持ちをありのまま描くドゥビオザ・コレクティブ

皆さんは、ボスニア出身のDubioza Kolektiv(ドゥビオザ・コレクティブ)というミクスチャーバンドを聞いたことはありますか?

 

彼らはボスニア出身で、トランペットが鳴り響くバルカン音楽(またはジプシー音楽)をベースにして、スカ、パンク、レゲエ、エレクトロ、ヒップホップといった様々な音楽ジャンルを混ぜた「バルカン風ごちゃ混ぜ音楽」といった感じのミクスチャーバンドです!

昨年2016年には日本でもデビューを果たし、アルバム「ハッピーマシン」が発売されました。そのため、遠く離れた日本でも注目されるようになってきたバンドです。

 

先日2017年7月16日には、オランダ南部ライデンで行われた夏フェスWerfpopに出演したドゥビオザ・コレクティブのコンサートを観に行ってきましたが、そこでは驚く光景がありました。

公演曲のうち半分以上がボスニア語で歌う曲だったものの、何を歌っているのかわからないオランダ人が、踊って踊って踊りまくってすごい盛り上がっていた光景です。

Welfpopに出演していたドゥビオザ・コレクティブのライブの様子》

 

こうした彼らの音楽には中毒性があり、今まで聞いたことのない真新しい彼らの音楽性にハマる人が続出し、世界中で人気が高まってきたドゥビオザ・コレクティブ。

バルカン事情に明るい私から見ると、彼らには中毒性のある真新しい音楽性だけではない魅力があると捉えています。

それは、バルカン地域の政治・経済・社会事情をコミカルに歌って政治的なメッセージが詰まった曲が多々あることです。そして、こうした曲を聴きながらバルカン事情を垣間見れることができます。

 

今回の記事では、彼らドゥビオザ・コレクティブの人気がある3曲「Volio BiH」「U.S.A」「No Escape(from Balkan)」をピックアップして、それぞれの曲からどんなバルカン事情が垣間見れるのか、専門的な知識も含めながら紹介してみたいと思います。

 

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Volio BiH

イントロからバルカン音楽に特徴的なトランペットの音が鳴り響く曲「Volio BiH」。ボスニア語で歌われているものの、非常にノリやすい曲であるため聞いたら曲に合わせて踊ってしまいます!

この曲名を直訳すると「~だったらいいのに(I would like it if~)」という意味になりますが、「BiH」にはもう一つの意味が込められています。

それは、Bosnia i Herzegovina(ボスニア・ヘルツェゴビナ)を省略する時に使う頭文字も表しています。ボスニアの正式名称は非常に長いので、南スラヴ語圏では「BiH」と表記することがしばしばあります。

 

★曲のポイント★

  • ボスニア紛争の経済的・社会的影響の描写
  • ボスニアの政治問題をコミカルに描写
  • 「西欧社会」価値観の押し付けへ反発する心理

 

ボスニア紛争の経済的・社会的影響の描写

《日本語》
お金がもっとあればいいのに、そうすれば昼食に寿司やラム肉を食べれるのに

《ボスニア語》
Volio bi’ da je para više nego manje i da svaki dan za ručak mezim sushi, jedem janje

ボスニアだけでなくバルカン地域は西欧諸国に比べて物価が安いと言えど、月300〜500ユーロの平均月給で生活することは非常にむずかしい。また、失業率もかなり高いため、仕事を探すことさえもむずかしい現状があります

こうした現状を招いている要因は、1990年代の旧ユーゴ紛争による後遺症と有能な若者の流出が後を絶たないことなどが影響しています。もう旧ユーゴ紛争後から20年以上も経っているのに・・・と思いますが、経済復興はどの国もなかなか進んでいません。そんな経済的に貧しい心境が吐露されています

 

《日本語》
スウェーデン人が僕たちの国へ政治亡命の申請をしてきたらいいのに

《ボスニア語》
Šveđani da kod nas traže politički azil

なんでスウェーデン人!?と思う方が大勢いると思います。実は、ボスニア紛争の影響で政治難民としてスウェーデンに移民したボスニア国民(ロマ人も含む)は数多くいます

Wikipediaによれば、1992年以降にスウェーデンへ移住したボスニア国民は5万人強となっています。

そのため、ボスニア人の政治亡命先として人気だったスウェーデンの人々が、反対にボスニアへ政治亡命するという非現実的なことをコミカルに表現しています。

ちなみにスウェーデン代表レジェンド&キングであるズラタン・イブラヒモヴィッチは、両親が政治難民ではないもののボスニア系スウェーデン人です。イブラヒモヴィッチは両親とボスニア語で会話しているようですね。

 

ボスニアの政治問題をコミカルに描写

《日本語》
犯罪者たちが政府から出て行けばいいのに。その代わりに、ブリュッセルのクソ野郎たちが僕たちに嫌がらせし始めるからどうでもいいや

《ボスニア語》
Volio bi’ da sa vlasti sjašu kriminalci džaba kad će uzjahati briselski seljaci

ボスニアだけでなくバルカン諸国の政治は、汚職だらけで腐敗しています。そのため、多くの国民が政府主導による国内政治を信用していません。

また、よく汚職まみれの政治家のことを「Criminalac 犯罪者」と表現します。そのため、今の政府に居座り続ける政治家に出て行ってほしい思いが表現されています。

また、ブリュッセル=ヨーロッパ連合本部たちやボスニア政治を監視する国際組織などがボスニア国内政治に干渉してくることをよく思っていない人々の声が反映されています。

 

「西欧社会」価値観の押し付けへ反発する心理

《日本語》
ヨーロッパに入りたくない、ヨーロッパが僕たちのところにやってくればいいじゃないか。
ほらっ、ヨーロッパがやってきたよ。そして、国際警察たちが僕たちにすぐに正義の鉄槌を振りかざしてくるよ

《ボスニア語》
Ja neću u Evropu nek ona dođe nama
Op, op, opa, dolazi Evropa Sa’će da nas biju sile svjetske milicije

ここでヨーロッパが意味するものはヨーロッパ連合だと思います。ヨーロッパ連合はバルカン地域における民族間の緊張や政治的対立を防ぐために、以前からバルカン諸国のヨーロッパ加盟への推進を図ってきました

しかしながら、ボスニア国民の中にはヨーロッパ連合に加盟することで彼らの生活基準や経済力、価値観に合わせなければいけないことに対する不安があります。

特にバルカン地域で最も優等生で経済的先進国であるスロヴェニアが2004年にEU加盟を果たしたものの、経済が上手く回っていないことを見ると、スロヴェニアよりも経済基盤の薄いバルカン諸国は生き残れるのだろうかという不安です。

また「国際警察」とは、国際犯罪を取り締まるインターポールや旧ユーゴスラヴィア紛争の戦犯者を裁く旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷のことを指していると思います。これら組織が西側諸国の規範で作られた「正義の鉄槌」をボスニアで振りかざすことに、反発する市民の声をコミカルに描写しています。

 

ここまでボスニアそしてバルカン事情をけっこう分かったのではないでしょうか?

次は、ボスニア人の移民事情が分かる曲を見てみましょう!

 

U.S.A

この曲は、ドゥビオザ・コレクティブが初めてアメリカでリリースしたアルバムに収録されていたものになります。そのため、アメリカ市場を意識して作成したタイトル曲でもあるかもしれません。

歌詞が非常に分かりやすく、曲調もジャンプしながら観客が踊れる曲であるため、彼らのライブでは毎回演奏しています!

 

★曲のポイント★

  • ボスニア人のアメリカ移住への強い願望を描写
  • 祖国の経済状況の実像を喩えて表現
  • アメリカ移住後に気付く祖国のすばらしさ

 

【日本語訳歌詞】(英語歌詞は動画内に表記)

ボスニア出身の僕をアメリカに連れていってくれ
僕は自由の女神像をすごい見たいんだ
もう待つことなんてできないんだ、アメリカに連れていってくれ
ゴールデン・ゲートブリッジに連れていってくれ、僕は社会に溶け込むから

隣の芝生はいつも青く見える
この悪夢から逃れて、約束の地に行けたらいいのに
どうか、あなたのリーダーの元へ連れていってくれ
僕はグリーンカードが欲しいんだ
僕はバルカンからロケットのように飛び出していきたんだ

僕は最初の一ページ目から人生をやり直したんだ
そして恐ろしい物語*1を忘れて、石器時代*2から逃げたいんだ
僕は鳥かごから出て行くチャンスを待っている
僕はまるで最低賃金で働く奴隷のようだ

ボスニア出身の僕をアメリカに連れていってくれ
僕は自由の女神像をすごい見たいんだ
もう待つことなんてできないんだ、アメリカに連れていってくれ
ゴールデン・ゲートブリッジに連れいってくれ、僕は社会に溶け込むから

いつか、君が年取ってくると
いつか、君はようやく理解するよ
いつか、僕の同胞が待つ場所に戻るよ
そして、祖国のような場所がないことに気づくよ

僕は欲しいものが見つかり、鳥のように自由になれると願っていた
群れの羊のようにゲットーに押し込まれるとは思ってもいなかったんだ
僕が聞いていたすべての約束は無意味なものとなってしまった
他の世界と完全に切り離されてしまった

隣の芝生が青く見えることなんて決してないんだ
僕は人のいない地へ戻って、人生をやり直したい
僕にはもうグリーンカードは必要ないとリーダーに伝えてくれ
バルカンへロケットのように飛んで帰りたいんだ

*1:恐ろしい物語=旧ユーゴスラヴィア紛争の悲劇
*2:石器時代=荒んだ国内の経済状態

 

解説

最初に挙げた曲のポイントは、それぞれ色付きの歌詞に当てはめています。ボスニア人だけでなくバルカン人全体、そして日本人の間でもアメリカ移住を夢見ている割合は多いはずです。

そのため、ボスニア人がアメリカに移住したい強い願望はとりわけ珍しいわけではありません。

その一方で、アメリカも前述したスウェーデンのようにボスニア人の政治難民をたくさん受け入れた国であるため、親族や友人、近所の友人がアメリカに暮らしている事例は多いはずです。

そうした人たちからアメリカ生活の素晴らしさを聞いて、アメリカ移住に強い願望を抱く割合はもしかしたら多いのかもしれませんね。

 

この曲の歌詞で注目してもらいたい箇所があります。それは、曲のサビに当たる部分になります。

いつか、君が年取ってくると
いつか、君はようやく理解するよ
いつか、僕の同胞が待つ場所に戻るよ
そして、祖国のような場所がないことに気づくよ

つまり、夢見ていた「自由の国」アメリカに移住したのものの、年取ってくると祖国であるバルカンのような素晴らしい場所がないことに気付き、同胞のもとへ戻るということです。

では、なぜこうした感情を抱き始めるのでしょうか?

長年海外に居住する日本人の間でも老後に日本に戻りたいと思う人もいますが、それと同じような現象なのでしょうか?

次の曲で、その理由が分かります!

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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