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オランダ総選挙から垣間見える「オランダらしさ」?

オランダ総選挙で垣間見れる「オランダらしさ」

2016年3月15日にオランダ総選挙(下院議会選挙)の投票が行われました。オランダ国内で右派政党が躍進し、一時は下院議会第1党になるのではないかと言われるほど世論調査で高い支持率を見せていたこともあり、オランダ国内だけでなく世界中のメディアや人々が注目していました。

結果的には、反イスラム・反移民を掲げ、過激な発言を繰り返していたヘルト・ウィルダース率いるオランダ自由党(PVV)は前回の選挙よりも5議席伸ばして議会第2党となり、選挙戦「敗北」という形に終わりました。

 

昨年の終わり頃にオランダに移住した私にとって、オランダ総選挙を現地で目の当たりにしたことだけでなく、オランダ総選挙自体に注目したのは初めてでした。おそらく、大多数の日本人の方もオランダ総選挙の行方に注目していたことも初めてではなかったでしょうか。

オランダに居住していたこともあり、選挙前から現在まで色々とオランダの政治体制や選挙制度、内閣の組織から選挙当日の様子に関する資料やニュースを読んだりしていました。そして、オランダ総選挙の投票日当日にもオランダ政治の中心都市であるデン・ハーグ市内を歩いて、街中の雰囲気を観察していました。

すると、興味深いことに私が知っている「選挙」とは異なる状況がオランダ総選挙で垣間見れた気がします。そして、このオランダ総選挙の「異なる状況」というのは、一種の「オランダらしさ」が反映されているのではないかと感じています。

今回は、そんなオランダ総選挙で垣間見れた「オランダらしさ」についてお話ししようと思います。

 

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オランダの選挙ポスターはお洒落?

オランダ総選挙で使われたポスター

オランダ総選挙で使われたポスター ※執筆者が撮影

Twitter等のソーシャルメディアで、オランダ総選挙で使われている選挙ポスターが「お洒落」とか「カッコいい」などと話題となっていました。

どの政党も候補者も皆同じような日本の殺伐とした選挙ポスターに比べて、様々なデザインやこだわりが見受けられますよね。「政治」「選挙」と聞くと堅いイメージがありますが、オランダではそんな印象は全く受けません。

 

投票用紙の大きさは世界一!?

オランダ総選挙で使われた投票用紙の大きさ

オランダは選挙制度として政党名簿比例代表制を採用しており、政党が擁立する候補者全員の中から支持する候補者に投票することが可能となっています。

また比例代表制のメリットとして、人気のない政党の候補者でも、政党全体の得票数に応じて議席が配分されるために議席を獲得する可能性があるために、多くの政党が総選挙に参戦しています。例えば、今回の総選挙では28政党が立候補し、最終的には13政党(新たな政党2つ含め)が議席を獲得しています。

※オランダの選挙制度の詳細は、以下の記事にて説明しています。

 

そして、オランダは日本のように投票用紙に投票する候補者の名前を手書きで書くのではなく、候補者の横の空欄に赤丸をつける投票方式を導入しているために、こんなに大きな投票用紙になってしまっています。

支持する候補者を探すのも、けっこう苦労するかもしれませんよね(笑)。

 

投票日=平日の「水曜日」

日本人からしてみると投票日は、国政選挙でも地方選挙でも「日曜日」というイメージがありますよね。しかしながら、オランダでは投票日が平日の「水曜日」に定められることがほとんどです。そして、今回のオランダ総選挙も3月15日の「水曜日」でした。

平日の「水曜日」に選挙を行う事実を聞いて、非常に驚きました。なぜならば、平日に選挙を行うと投票率が下がり、選挙に国民の意見が正確に反映されない可能性があるからです。この点を考慮して、日本を含め多くの国々でも休日に選挙を行っているはずです。

その反面、オランダでは平日である「水曜日」に選挙を行っても日常の生活や仕事に影響を与えないということで、問題なく毎回実施しているようです。

では、いつから「水曜日」に選挙を行うようになったのか調べてみると、驚くべきことに相当昔からの慣習として現在まで残っているようです。実は、第一次世界大戦末期の1918年7月3日に行われた総選挙にまで遡ります。この総選挙前には多くの改革が行われており、すべての成人男性への参政権(男性普通選挙)および比例代表選挙制度が導入されていました。そのため、この総選挙がオランダ社会における近代的な選挙の序章となります。

これまでのオランダ総選挙の実施された日を見ていくと、「水曜日」に選挙が実施されていない例も何件かありました。そのため、「水曜日」に選挙を実施することが正式に決められているわけではないと思われますが、現在に至る「水曜日に実施する選挙」慣習は約100年前から始まっているということになります。

 

このように、平日の「水曜日」に選挙を行っているオランダですが、曜日に関係なく有権者の多くは投票している事実は以下の投票率の高さから分かります。このことは、有権者の多くが政治に関心を持っている事実であるだけでなく、ワーク・ライフ・バランスが整備され、様々な働き方が推奨されているオランダには、仕事がある平日にも社会が選挙への投票を後押しするような環境が整っていることを表しているのはないかと思います。

 

投票率の高さに驚愕!

投票所に並ぶ有権者の列

投票所に並ぶ有権者の列 ※執筆者が撮影

今回のオランダ総選挙では、右派政党であるオランダ自由党(PVV)が議会第1党にはならずに「選挙戦敗北」という結果に終わったことが世界中の人々に安堵をもたらし話題となっていました。

そして、もう一つ世界中の人々に話題となっていたのが、今回の総選挙における投票率の高さです。まだ正確な投票率は明らかになっていませんが、調査会社Ipsosによれば投票率が「約81%」だと発表しています(こちら参照)。

近年の日本国内における衆参両議院選挙の投票率は大体50%台前半であり、直接国家元首を選ぶことが出来るアメリカ大統領選挙でさえ同様に50%台という低い水準に慣れてしまっている人にすれば、驚くべき投票率の高さです。

この投票率の高さは、1986年の総選挙で記録した85.8%の投票率以来30年ぶりの高水準だったようで、オランダ国民の有権者がどれほど注目していたのかが分かります。日本で憲法改正を問う国民投票が将来行われても、ここまでの高い投票率には到達しないのではないかと疑ってしまうほどの高水準ですよね。

投票日当日のビネンホフ(政治機構が集まる建物)

投票日当日のビネンホフ(政治機構が集まる建物) ※執筆者が撮影

オランダメディアによれば、この投票率の高さに貢献したのは政治の未来への関心だけでなく、当日の天気も作用していたのではと報じています。実は投票日当日は、澄み渡る快晴に加え非常に暖かい天気でした(上図)。そのため、普段投票しない10代の若者に対しても投票所へ行く雰囲気を作ったのではないかと言われています(こちら参照)。

 

さて、これまで今回のオランダ総選挙の投票率の高さを話してきましたが、過去のオランダ総選挙の投票率を調べてみると、実際にはそれほど驚くべき数字ではないということが分かりました。

まず1925年から1967年までに実施されたすべての総選挙では90%以上の投票率があり、197080年代は80%台、1990年代~現在までは7080%台の投票率で推移してきています。そして、前回の2012年に行われた総選挙では約75%の投票率でした。

こうした投票率の高さは、国民の意見を反映させる一大イベントとして「選挙で投票すること」を重要視している文化が、多くの国民の意識の中に存在しているということを表しているのではないかと思います。

 

様々な形態の投票所!

日本では投票所というと、学校や公民館、役所といった公共施設を思い浮かべますよね。オランダでも同様に上述したような公共施設が投票所として主に使われていますが、「えっ、噓でしょ!?」と思ってしまう場所に投票所があったりします。

 

駅構内に設置された投票所

デンハーグ中央駅に設置された投票所に並ぶ有権者

デンハーグ中央駅に設置された投票所に並ぶ有権者

ユトレヒト中央駅に設置された投票所

ユトレヒト中央駅に設置された投票所 出典:BBC

 

駅構内に投票所が設置されるようになったのは最近になってからのようですが、電車で通勤している会社員や学生にとっては非常に便利な投票所ですよね。オランダの投票所は主に朝7:30~夜9:00まで開かれています。そのため、会社や大学の行き帰りで利用する駅で投票できます。システム管理が非常に難しいかもしれないが、日本でも駅構内に投票所を設置すれば若者の投票率も上がるのではないかと思います。

 

車やバイク、自転車に乗りながら投票できるドライブスルーの投票所

ドライブスルーの投票所

バイクに乗りながら、投票所に来た有権者

自転車に乗りながら投票する有権者

自転車に乗りながら投票する有権者 出典:BBC

 

自転車保有率・乗車率が圧倒的に高いオランダならではの投票所。そして、わざわざ車やバイクを駐車スペースに停車せずとも、投票する自由な発想に驚き!

 

オランダを象徴する場所でも・・・

オランダを象徴する風車内に設置された投票所

オランダを象徴する風車が投票所になっているところも。

 

風車内に設置された投票所の様子

風車内に設置された投票所の様子 出典:BBC

 

毎日の生活で慣れているオランダ国民にとっては特別でもないかもしれませんが、移民の有権者にとっては記憶に残る投票になりそう。

 

個人宅にまで、投票所が設置されている!

 

オランダの場合、投票所は日本のように「〇〇投票所」と既に決まっているのではなく、住所登録している市内の投票所であればどこでも投票できる仕組みになっています。そのため、投票所に向かうために外出するのではなく、別の用事で外出した時に出先の近くにある投票所で投票出来る環境は。非常に良い取り組みだなと感心しています。

 

「自由主義国家」を象徴するノリノリの政治家

オランダ総選挙の出口調査による想定獲得議席数が発表された後に、各政党が各会場に集まる支援者の前で勝利宣言を行ったりしていたのですが、その光景に非常に驚きました。お堅いイメージのある「政治家」がはっちゃけていたのです!(笑)

 

上動画は、今回の総選挙で33議席を獲得し第1党となった自由民主国民党(VVD)党首マルク・ルッテによる勝利宣言の様子です。なんと米国歌手ブルーノ・マーズのアップテンポな曲”Uptown Funk“が会場内に流れながら、ルッテ党首は入場してきました!

どうやら、この曲はルッテ党首のお気に入りの曲のようです。

 

上動画は、今回のオランダ総選挙にて最大の勝利者と言えるほど大躍進したフルンリンクス党(GL)党首イェッセ・クラーヴァーによる勝利宣言の様子です。

彼は30歳の若さで党のリーダーになっている人物であり、多くの若者から支持されているということもありますが、ノリノリのダンスミュージックとともに入場してきました!

こうした光景は、日本の政界では絶対に見られないことですよね。

 

以上、オランダ総選挙で垣間見れる「オランダらしさ」をまとめてみました。近年若者の投票率の低さが問題視されると同時に、公職選挙法の改正で選挙権を有する年齢が20歳から18歳へと引き下げられる時代が訪れた日本。政治に関心のない若者にも選挙に行ってもらえるように、政治や政治家に対するイメージを変えたり、より柔軟な体制で利便性を上げたりすることが、これまでに紹介した「オランダらしさ」から学べるのではないかと思います。

 

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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