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セルビア大統領選挙の翌日から若者が始めた「独裁者反対デモ」は何のため?

セルビア「独裁体制に反対するデモ」

2017年4月2日(日)に東欧に位置し、旧ユーゴスラヴィアの構成諸国であったセルビア共和国(以下、セルビア)にて、次期大統領選挙の投票が行われました。

 

※セルビア共和国の詳細に関しては、以下の記事をご覧ください。

 

現職セルビア大統領は、2012年の同選挙で勝利したセルビア進歩党(Srpska Napredna Stranka)所属のトミスラブ・ニコリッチであり、彼が5年の任期を終えるにあたって次期大統領選挙が行われたのです。

今回の大統領選挙に立候補したのは計11人の候補者であり、最も有力だった候補は、現首相であるセルビア進歩党所属のアレクサンダル・ヴチッチ候補でした。選挙が行われる前から世論調査で圧倒的な支持率を見せていたヴチッチ候補は、他の対立候補を全く寄せ付けずに約55%の得票率を獲得して次期大統領になることが決定しました。

※得票率2位:サーシャ・ヤンコヴィチ候補(16%)、3位:ルーカ・マクシモヴィチ候補(約9%)など。

勝利宣言をするヴチッチ候補

勝利宣言をするヴチッチ候補 出典:b92.net

ヴチッチ候補は、歴史的・文化的な繋がりのあるロシアとの友好関係を保ちながらもEU路線を推進する政治観を持つ者です。バルカン地域に和平をもたらしたい西欧諸国の多くはヴチッチ候補の勝利を期待すると同時に、選挙結果に非常に満足しているとのコメントを発していました。

 

しかしながら、ソーシャルメディア(TwitterFacebook) ではこの選挙結果に不満を持つセルビア国民の声が一際目立っていました。

なぜならば、ヴチッチ候補の政治に反対する者、つまり反体制派の国民にとっては、ヴチッチ政権は民主主義とはかけ離れた恐怖政治そのものであり、メディアにおける自由な報道も制限された国家となってしまったからです。また、今回の選挙でヴチッチ候補が「票奪い」などの不正行為を行っていたと信じる者も多くいます。

上記の理由で、この選挙結果に不満を感じる若者の一人がFacebook上に、”Protest Protiv Diktature 2017“「独裁者反対デモ2017」というイベントを立ち上げます。このイベントの内容は、投票日翌日の4月3日に首都ベオグラード中心地近くにある国会議事堂前で、独裁者(ヴチッチ候補)の台頭に反対するデモを行うというものでした。

「独裁者反対デモ2017」イベントページの様子

「独裁者反対デモ2017」イベントページの様子

このデモのイベントがFacebook上でいつ企画されたのか正確には分かりません。しかしながら、確かなことは企画から実際にデモが実行されるまでの24時間以内にこのページは拡散されて、「参加する」と回答したのは約7,000人にも及びました。

当日デモに参加した若者の一人がその様子をFacebook上で生中継している動画を私は見ながら、デモの様子を追っていました。すると驚くべきことに、デモ参加者のほとんどが大学生ほどの年齢であり、若者の集団が主催者なしに行っていたデモだったのです!

 

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「独裁者反対デモの様子」

予告通り4月3日18時(現地時間)に国会議事堂前でデモが開始された当初は、以下の画像のようにそれほど人は集まっていませんでした。おそらく多くて500人くらいだったと思います。

 

生中継の動画を見ていた時に、”Vučiću, Pederu!“(「ヴチッチ、ク〇野郎!」)や”Gotov je!“(「お前は終わりだ!」)などのチャントが頻繁に聞こえてきました。

その後、国会議事堂前でデモを行っていた若者たちの集団がベオグラード市内を行進し始めます。

 

この行進が行われている最中に、若者たちは”Izlazite Napolje!“(「みんな、外に出てきてくれ!」)と周りの建物にいる人々にデモに参加するように繰り返しチャントをしていたのが非常に印象的でした。

現地でリポートをしていた記者によれば、最終的にこの行進に参加していた若者は2~3,000人に及ぶと報じています。その後、行進していた若者集団は、国会議事堂前に再度戻り、デモ活動を再開させます。最終的には23時頃になってデモ活動の終わりに近づいてきましたが、Facebook上にて同様のデモを明日に再度行うことが発表されていました。

 

そして、翌日4日に行われたデモ(2日目)は前日よりも大規模なデモへと変化すると同時に、若者だけが参加するデモではなくなっていました!

 

バルカン報道機関BalkanInsightによれば、2日目のデモに参加した人数は最低でも15,000人に上るとのことです。私も生中継でデモ現場を見ていましたが、前日に比べて10倍近い人数がデモに参加していたと思います。

また、前日に行われたデモでは参加者のほとんどが若者ばかりだったものの、2日目のデモでは年金受給者であろう国民の姿もしばしば見受けられました。

若者と共にデモに参加する年金受給者

若者と共にデモに参加する年金受給者 出典:BalkanInsight

 

若者と共にデモに参加する年金受給者

若者と共にデモに参加する年金受給者 出典:BalkanInsight

 

デモ2日目の様子は、以下の動画で見れます。

2日目のデモ終了時に、参加者は「セルビアは目覚めた!また明日会おう!」と叫んでいたため、翌日の5日だけでなくそれ以降も引き続きデモは行われていくと思われます。

 

ヴチッチ候補=独裁者?

ヴチッチ候補=独裁者?

ヴチッチ候補の絵とともに「独裁者は要らない」と書かれたプラカードを掲げるセルビア国民 出典:N1info.com

今回のデモが「独裁者反対デモ」と名付けられていたり、多くの若者が選挙結果に不満を抱いてデモに参加していますが、どうして彼らはヴチッチ候補を「独裁者」と捉えているのでしょうか?

以下で、その理由を詳細に見ていきましょう。

 

ヴチッチ陣営から民間会社への圧力

上記の動画は、今回の大統領選挙に無所属で出馬し、ヴチッチ候補に大差をつけられたものの2番目の得票率を獲得したヤンコヴィチ陣営が選挙期間中に公開したインタビュー集になります。

このインタビュー動画内では、セルビア最大手バス会社ラスタの社員数人が匿名で、ヴチッチ候補が所属するセルビア進歩党から圧力があったことを告発しています。内容をまとめると、バス会社ラスタの各部署管理者が社員を呼び集め、ヴチッチ候補への投票を約束する誓約書に署名させられたと証言しています。

証言者たちは誓約書に署名することを拒みましたが、次回の人事異動で署名を拒否したものはクビになるだろうと彼らは述べています。

こうした話は、今回の選挙だけでなく以前の議会選挙でも噂に上がっていたことでした。このようにヴチッチ陣営から「票集め」するための圧力が民間企業にかかっていることを証明しています。

 

選挙における不正操作および「票奪い」の疑い

上記の動画は、前述したサーシャ・ヤンコヴィチ候補が大統領選挙活動の最後に首都ベオグラード中心部にある共和国広場で開催した演説の様子です。

動画内3分30秒辺りからのシーンで、彼は次のように述べました。

 

アレクサンダル・ヴチッチ候補に告ぐ!

4月2日の選挙投票日に票を奪うことなんて間違っても考えるなよ!

 

この発言は、「民主主義」国家であるならば敵対候補による問題発言のように捉えられますが、実は以前の選挙からヴチッチ候補そしてセルビア進歩党による「票奪い」が行われ、選挙結果が不正に操作されているという噂がありました。

こうした背景もあり、今回のヴチッチ候補が圧勝した選挙結果も彼の陣営によって不正に操作されたのではないか、という疑いが若者の間に強く根付いています。

 

セルビア主要メディアへのヴチッチ候補の圧力

セルビア大統領選挙活動期間中のメディア調査結果

セルビア大統領選挙期間中のメディア調査の結果 出典:http://www.birodi.rs

上記の画像は、大統領選挙期間中(3月3~9日)にセルビア主要メディアが各候補者にどれくらいの時間を割いて報道していたかを表す調査結果です。

緑グラフはヴチッチ「次期大統領候補」、ピンクグラフはヴチッチ「首相」として報道された割合を際しています。

上記の調査結果グラフを見て気付くと思いますが、一番下のN1報道局以外のメディアでは、ヴチッチ氏に割く時間が圧倒的に多いことが分かります。特に、PINK報道局はその傾向が顕著に表れています。

 

新聞メディアにおける状況はどうでしょうか。

2月15日~3月22日までに発行された新聞の表紙(1面)における各候補者の露出度が調査された結果(調査結果の詳細はこちら)、選挙に関する全表紙のうち、ヴチッチ候補は約60%を占めており、次いでヤンコヴィチ候補が35%を占めていたと報告されています。

そして、各候補者に対する報道の内容に関しては、ヤンコヴィチ候補に対しては48%の内容が「肯定・中立」であったのに対し、ヴチッチ候補に対しては97%の内容が「肯定・中立」であったと報告されています。つまり、ヴチッチ候補への批判記事は3%のみしかなかったということです。

このことは、ヴチッチ候補および所属するセルビア進歩党陣営が、セルビアの主要メディアに何らかの形で圧力をかけ、情報統制を行っていることを表しています。中には、プロパガンダを多用した独裁者ミロシェヴィチ政権時代の時よりも、ヴチッチ政権の現在の方がメディアにおける表現の自由がないと言う国民も多くいます。

そのため、インターネットを通じて中立なメディアの情報にアクセスできる若者はこうした現状を知っています。反対に、インタ―ネットを使えない世代の多くは情報統制されたメディアによる情報を頼りにして生活しているために、ブチッチ候補が好きなように「洗脳」することが可能になってしまっていることが問題視されています。

 

新聞のページ

 

上記の画像は、大統領選挙が行われる数日前(3月30日)のセルビア全国紙朝刊の表紙です。主要全国紙6社の表紙すべてが、ブチッチ候補の選挙宣伝となっているこの光景は、私にとってもセルビア国民の多くにとっても非常に衝撃的でした。

この選挙宣伝は、決して不正ではありません。各新聞社にお金を払えって広告を載せているわけですから。しかしながら、主要全国紙6社に同じ広告を載せていた光景は、現在もなお共産主義・独裁体制を敷いている北朝鮮を彷彿とさせると大きな批判を浴びていました。

 

まとめ

「独裁者反対デモ」

出典:N1info.com

セルビア首都ベオグラードで選挙翌日から始まった「独裁者反対デモ」は、セルビア各地に広まり、4月4日に行われた2日目のデモでは国内15ヶ所の市で若者が中心となってデモ活動が行われていました。

予告通りであるならば、私がこの記事を書いている5日以降も引き続き「独裁者反対デモ」は行われる予定です。今後もどんどん参加者も増えていくのではないかと思います。

 

実は、このデモ活動の光景は約17年前に同じ場所で起きたミロシェヴィチ政権反対デモを彷彿とさせます(以下の動画を参照)。

この時は、国会議事堂前でデモ活動をしていた国民が暴徒化し、国会内に侵入・放火するということに至りました。しかしながら、この事件をきっかけにしてミロシェヴィチ政権崩壊への始まりとなったために、歴史的な出来事でした。

現在のデモ活動がこのように激化することはないと思いますが、今後のセルビアの明るい未来に向けて、立ち上がった若者の姿をセルビアを愛する一人の若者として誇らしく思います。

※最後に、デモ活動の様子を生中継するメディアを探す方法は、Facebook上で”Protest protiv diktature uzivo”と入力して検索します。そうすると、何個か見つかると思います。基本的にデモ活動開始時間は、18時(日本時間:夜中1時頃)からとなっています。

 

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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