KOTARO JOURNAL

3月15日に総選挙を控えるオランダの政治制度を徹底解説!

オランダの政治制度

昨年の2016年は大きな政治変化が起きた年として、皆さんも記憶に新しいと思います。

同年6月にはイギリスでヨーロッパ連合(EU)を離脱するべきかどうかを問う国民投票が行われ、離脱支持派が僅差で勝利し、イギリスのEU離脱が決定しました。 そして、同年11月にはアメリカで大統領選挙が行われ、過激な発言を繰り返しながら反移民政策・米国一国主義を掲げていた共和党トランプ候補(当時)が民主党ヒラリー・クリントン候補を破り、大統領の座を手にしました。

これら2つの出来事が実際に起きるとは、多くの人が予期していなかったと思われます。私も現実に起こり得るものとは思っていませんでしたので、衝撃的でした。

そして、2017年もまた大きな政治変化が起きる年となりうる可能性があることで世界的に注目を浴びています。その理由は、EU中心国として君臨するドイツとフランスで総選挙が行われる予定であり、両国とも反移民・難民や反EUを掲げる右派政党やポピュリズム政党が勢力を伸ばしているからです。

フランス国民戦線党首マリーヌ・ルペン

フランス国民戦線党首マリーヌ・ルペン

特に4~5月にかけて大統領選挙が予定されているフランスでは、反移民・反EU・自国第一主義を掲げる国民戦線マリーヌ・ルペン党首が支持率を伸ばし、2月に行われた世論調査で支持率トップとなっています。そして、もしルペン党首が大統領選挙で勝利しフランス新大統領となれば、第2次世界大戦後のヨーロッパで初となる右派政党の指導者が国家のトップとなることでも注目を浴びています。(ドイツの連邦議会選挙は8~10月に予定)

そうした中、オランダでも今年315日にオランダ下院議会選挙が予定されており、2017年に入ってヨーロッパで初の選挙が行われる国ですが、あまり注目を浴びていません。しかしながら、実はオランダでも反移民・反EUを掲げる右派政党が支持率を伸ばしており、オランダの下院議会で多くの議席を確保する可能性があります。

オランダ自由党ヘルト・ウィルダース党首

オランダ自由党ヘルト・ウィルダース党首

このウィルダース党首は、これまでに反モロッコ移民や反イスラムなど過激な発言で裁判沙汰になり有罪判決を受けたり、安全を考慮して24時間の警備体制が敷かれ、妻とは週に1回しか会えない等で「注目」を浴びていました。またブロンドヘアで過激な発言、Twitterで頻繁にツイートしている点がトランプ米国大統領と共通しており、「オランダ版トランプ」とも呼ばれています。

そんなウィルダース党首が率いるオランダ自由党(PVV)が支持率を伸ばしており、3月に行われるオランダ下院議員選挙で最大議席数を獲得する可能性が大いにあります。

前置きが長くなりましたが、今回は間近に迫ったオランダ総選挙を前にして、あまり知られていないオランダ政治制度について徹底解説してみようと思います。

 

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政治体制

ウィレム・アレキサンダー国王

出典:Royal House of the Nentherlands

オランダの政治体制は立憲君主制を採用しており、現在の国家元首は2013年よりウィレム・アレキサンダー国王(Willem-Alexander Claus George Ferdinand, King of the Netherlands)となります。

オランダの立憲君主制は、ヨーロッパで言えば北欧諸国やスペインなどに見られるように憲法によって制限され、政治的な権限のない国家元首の体制をとっています(ただし、オランダ内閣組閣時の儀式的な任命権を保有する)。

日本は立憲君主制を採用しているかと言うと、日本国憲法では日本国の国家元首としてではなく、国家の象徴と規定されているので厳密には異なります。しかしながら、実際の日本国天皇の役割は立憲君主制の国家元首と同じであり、他国からも国家元首として見られているために、オランダは日本と同様の政治体制を採用しているという見方も出来ます。

4名のオランダ王国女王の方々

4名のオランダ女王の方々 出典:Stamps of the World

そして、現在のオランダ王国君主は1815年にオランダ王国(当時はネーデルラント連合王国)の初代国王ウィレム1世から続く王家になります。実は現在のウィレム・アレキサンダー国王が即位する前は、1890年以降長らく4名の女王(エンマ→ウィルへルミナ→ユリアナ→べアトリクス)が国家元首として即位していました。そのため、現在のウィレム・アレキサンダー国王が男性君主として即位したことは約110年ぶりだったことになります。

 

オランダ王国憲法

現行の憲法は、1848年に自由主義の政治家ヨハン・ルドルフ・トルベッケ(Johan Rudolph Thorbecke)により起草されたものが基となっています。彼は、オランダ国内で政治変化が起きる度に憲法改正の議論が生じることを防ぐために、憲法改正が生じること非常に難しいものにしています。

ヨハン・ルドルフ・トルベッケ

ヨハン・ルドルフ・トルベッケ 出典:Historiek

憲法改正するためには、憲法改正法(voorstelwet)が各議院(上院・下院)で総議員数のうち半数の賛成によって承認される必要があります。この両議院の承認は、憲法改正を施行することではなく憲法改正の議論の下地が整ったことを指し、次の段階へと入ります。次の段階は、下院議院の総辞職と下院議員総選挙です。この総選挙で選出された下院と上院の両議院にて再度憲法改正法の議論が行われ、今度は両議院で議員数のうち3分の2の賛成によって承認される必要があります。そして、これらすべての過程を通過することで憲法改正が施行されます。

つまり、1度目の両議院による憲法改正法の承認後に行われる下院議員総選挙への投票が、日本の憲法改正手続きの国民投票に当たり、オランダ国民の賛成・反対の意思が反映される形になります。

日本の憲法改正手続きは、各議院で総議員の3分の2の賛成→国民投票による多数決→日本国天皇による交付とオランダに比べれば複雑ではありませんが、皆さんもお分かりの通り、戦後に起草された現行の日本国憲法はこれまでに一度も改正されたことはありません。

反対に、憲法改正がより複雑であるはずのオランダでは小さな改正も含めてこれまでに頻繁に行われており、1983年の憲法改正では1848年に起草された憲法のほとんどの条項が改訂され、現代の社会に即した憲法に生まれ変わっています。直近の憲法改正は2005年に行われています。

オランダの憲法の内容は、こちらで参照できます。

 

議会制度

オランダの議会

オランダでは、日本を含め多くの先進国が採用している「両院制」、つまり2つの議院からなる立法府の形を採用しています。日本の立法府が「国会」と呼ばれているように、オランダの立法府は「スターテン・ヘネラールStaten-Ge neral)」と呼ばれており、首都アムステルダムではなく国内政治の中心地とされるデン・ハーグに設置されています。

オランダの立法府「スターテン・ヘネラール」は主に3つの義務があります。

  1. 政府と協力して法整備すること
  2. オランダ国民の代表として、法の運用や政府の行動すべてを監視すること
  3. 有権者の代表として有権者との密な関係を保ち、国民の意見を政府の政策に反映させること

次に上述したようにオランダ議会は、以下の2つの議院から成り立っています。

  • 第一院(Eerste kamer)=上院または元老院
  • 第二院(Tweede kamer)=下院または代議員

以下で両議院の概要を説明していきますが、筆者の便宜上で上院・下院という表現を使って、上院ではなく下院から説明していきます。

 

下院(代議員)

議員定数は150議席で、4年に1度行われる下院議員総選挙で国民の直接選挙によって選出されます。下院は週3回火・水・木曜日に開会されています。各議員の年間給料は、約86,000€(2007年時)であるものの、多くの議員が国会があるデン・ハーグ郊外に居住しているために、多大な交通費や宿泊費を自己負担しなければなりません(この経費の自己負担にはビックリ!)。

下院では、下院議員および内閣が作成・提出した法案について議論をし、時として法案を修正し、最終的に承認または不承認をする権限を有しています。可決された法案はその後、以下で説明する上院へと送られます。

 

上院(元老院)

議院定数は75議席で、オランダ国内の12州議会(下図参照)が4年に1度上院の議員を選出していく。そのため、国民が直接選出するわけではないために間接選挙となるが、州議会議員選挙はオランダ市民による直接選挙である。

オランダの12州

オランダの12州 出典:rabbel.nl

上院議員は州議会から選出されている代表であり、上院議員としてだけでなく他の仕事や活動も行っていることから、上院は週に1度火曜日のみ開会している。そのため、手当として年間に約21,400€2007年時)が各議員に支給されています。また、この手当以外にも交通費や宿泊費に対する手当も支給されます(この点に関しては、上院議員は下院議員よりも手厚い支援がなされています)。

上院は、上述した下院の法案に関する権限が異なります。まず上院は、法案を作成する権限がありません。そして、上院は下院で可決された法案を再議論し、承認するか不承認するかの判断をしますが、法案を修正する権限がありません。

この法案に関する権限において、オランダの下院は上院よりも優越的権限を有していることが分かります。日本の場合でも、衆議院により多くの権限が付与されており、日本国憲法において「衆議院の優越」が規定されています。

 

オランダ政府

ルッテ内閣が発足して初めての閣僚会議の様子

ルッテ内閣が発足して初めての閣僚会議の様子

憲法上、オランダ政府は国家元首(現在はウィレム・アレキサンダー国王)と首相を含めた大臣から成り立っています。国家元首がオランダ政府の一部とは言えど、政治に関する実際の権力はありません。

興味深いことにオランダ政府を構成する各省の長である大臣の数は各内閣によって異なります。また、各省の名前や任される責務も変更される場合もあります。そして、大臣の中には自身が長となっている省が存在しない場合もあります。

20172月現在のルッテ内閣は、首相であるマルク・ルッテ氏を含めて以下の15名の大臣、11省によって構成されています。ということは、4名(赤字で記入)の大臣は自身が長となっている省がないということになります。

  • 首相
  • 社会・雇用大臣
  • 外務大臣
  • 内務・オランダ王国総務大臣
  • 安全・司法大臣
  • 教育・文化・科学大臣
  • 財務大臣
  • 防衛大臣
  • インフラ・環境大臣
  • 経済大臣
  • 健康・福祉・スポーツ大臣
  • 貿易・開発協力大臣
  • 移民大臣
  • 環境大臣
  • 農業大臣

オランダ政府の公式サイト(こちら)より(参照日2017228日)

 ※もちろん日本でもその時々における国内外の問題に対処するために、内閣が新たな大臣が任命されたりする場合もあります(例として、復興大臣や地方創生大臣等)。

 

次回はオランダの選挙の仕組みや選挙制度について徹底解説をしようと思いますので、お楽しみに!

 

参考資料
Politics in the Netherlands, ProDemos, 2013.
The Dutch Poilitical System in a Nutshell,  Instituut voor publiek en Politiek, 2008.

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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