KOTARO JOURNAL

シンタクラースの仲間ズワルト・ピートの容姿は人種差別なのか?〈前編〉

ズワルト・ピート

オランダには、オランダ版サンタクロースと言われるシンタクラースの伝統文化があります。

このオランダの伝統文化に欠かせない人物であるシンタクラースは、愉快な仲間であるズワルト・ピート(蘭:Zwarte Piet、英:Black Pete、日:黒いピート)と共に、オランダに毎年11月中旬にやって来て、子供達に夢と希望を与えています。

このように子供達が一番楽しみにしている伝統的な催しが、近年オランダ国内だけでなく国際的に「大きな問題」として取り扱われるようになってきました。

それは、ズワルト・ピートの容姿が人種差別に値するのではないか?という論争です。

また、この論争が抗議集会を起こすまでに至るようになりました。

※オランダのシンタクラース文化に関しては、以下の記事を参照してください。

 

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ズワルト・ピートの容姿

http://gty.im/134852437

このズワルト・ピートの伝統的な外見的特徴は、

  1. 顔一面に真っ黒な化粧をしている点
  2. クセのあるカーリーヘアまたはアフロのかつらを被っている点
  3. 印象的な紅色の口紅を塗っている点
  4. 両耳に大きな金色のイヤリングを身に着けている点
  5. 色彩豊かなルネサンス期の服装を着用している点

 

私は今回初めて、このオランダの伝統的文化である「シンタクラース祭」を間近で見てました。もちろんシンタクラースの仲間ズワルト・ピートを見るのも初めてでした。

正直な感想として、上記で挙げた容姿のため強烈な印象を残すキャラクターであり、私が想像するいわゆる「クリスマス」文化に登場するキャラクターとしては非常に異色な存在であると感じました。

また、ズワルト・ピートたちは街中で見かける子供達一人一人にお菓子を配ったりしているので、シンタクラース同様にズワルト・ピートは子供達にとって大人気のキャラクターであり、「シンタクラース文化」に欠かせない存在であると感じました。

 

しかしながら、冒頭で挙げたズワルト・ピートの特徴的な容姿は、黒人に対して侮辱的であり、黒人奴隷を彷彿させるものとして人種差別であると訴えかける声が近年になって増加しています。

 

ズワルト・ピートの容姿のどこが人種差別に値するのか?

http://gty.im/2665658

前章で挙げたズワルト・ピートの容姿を見て、おそらく多くの方が疑問に思うことがあると思います。

「なぜズワルト・ピートは顔一面が真っ黒なのか?」

 

この疑問に対し、多くのオランダ人は以下のように答えると思います。

「ズワルト・ピートが子供達のもとへプレゼントを届けるために、煙突を昇り降りした時に大量のすすが顔に付着してしまったからだよ。」

 

シンタクラース文化に触れてこなかった皆さんは、この回答を聞いて納得しますか?

この回答における矛盾点は、

  1. 付着したすすで、あそこまで真っ黒になるわけがない
  2. 顔にすすが付着したのに、衣服に一切の汚れがない

 

このように、ズワルト・ピートの顔一面が真っ黒である容姿を正当化できる理由がないことも、人種差別であると訴える声を押し上げている要因にもなっているのではないかと思います。

また、クセのあるカーリーヘアまたはアフロの髪は黒人の典型的な髪質であり、両耳に身に着けている大きな金色のイヤリングは、歴史的に黒人奴隷の証に値するものであるため、「黒人に対して侮辱的である」や「黒人奴隷を彷彿とさせる」といった声は、必ずしも当てつけの批判ではないことと捉えられます。

 

ズワルト・ピートの容姿を巡る論争

http://gty.im/542636132

 

記録上、初めてズワルト・ピートの容姿に関して疑問を投げかけられたのは、1968年12月7日に遡ります。M. C. Grünbauerという名前の女性は、寄稿したパノラマ雑誌にて以下のように問題提起しています。

「私達が愛する伝統的なシンタクラース祭を現在の形で祝い続けることは、もはや不適切である」。奴隷制度は1世紀以上にも渡って廃止されているにもかかわらず、「私たちオランダ人は黒人男性(ズワルト・ピートを指す)を奴隷として描写する伝統を残している。権威のある白人の主(シンタクラースを指す)は、馬もしくは王座に座っている。ピートは、重い袋を抱えながら歩いている」

※(カッコ)内は筆者の追記

出典:St. Nicholas Center

 

この問題提起が公になったその後、ズワルト・ピートの容姿がある人種に対する否定的な固定観念を含んでいるのではないか?という疑問の声がより多く挙がるようになりました。

こうした声が抗議集会という形を取って、オランダ国内全体だけでなく国際社会全体でも注目され始めたのは、2011年になります。

 

オランダ王国構成諸国の一つであるキュラソー島出身のクインシー・ガリオ Quincy Gario(下記画像左側)は、彼に賛同する他3名と共に、2011年11月12日にオランダ南部に位置するドルドレヒト市で行われた「シンタクラース到着祭」に向かいました。

Zwarte Piet is Racizme(Zwarte Piet is Racism)

抗議集会を行うクインシー・ガリオ(左側男性) 出典:Zwarte Piet is Racizme

 

彼らは自作した「Zwasrte Piet is Racizme(ズワルト・ピートは人種差別だ)」とデザインされたTシャツを着て、シンタクラースを待つ観衆とともに「平和的に」小規模ながら抗議集会を開きました。

しかしながら、彼らの「平和的な」抗議集会は、当日警備をしていた警察によって強制的に終了させられました。ガリオは複数の警察官によって暴力的に地面に叩きつけられ、背中を蹴られ、引きずられながら拘束されました。

※当時、下記の映像はFacebookYoutube等を通じて世界中に広がりましたが、オランダ国内のテレビ放送では放映されなかったそうです。

 

ガリオは、この抗議集会の意義を以下のように説明しています。

私達がこのプロジェクト(Tシャツ作成や抗議集会等)を始めた理由は、人々がズワルト・ピートの存在に関して歴史的背景を知る必要性があると感じたからです。

そして、このプロジェクトの目的は、事実に基づきながら健全な議論を始めることです。

私たちは、シンタクラース祭を中止しろなどとは決して主張していません。私達が主張したいことは、ズワルト・ピート文化の起源を学び、このズワルト・ピート文化は現在の世界に果たして受容されるものなのか皆さんに問いてほしいのです。

※太字は筆者の強調部分

出典:St. Nicholas Center

 

この抗議集会によって、ズワルト・ピートの容姿に関する苦情が大幅に増加しました。そして、オランダの公共放送でも、この問題に関する議論が行われるようになります。

 

このように、公共の場で議論が起き始めたことはガリオが目的としていたことでもあるので、大きな意義があったと言えるでしょう。

特に、「オランダの大多数の国民は、ズワルト・ピートの存在について議論することに否定的である。なぜならば、このことを議論する人はシンタクラース文化を排除したい側だと思われてしまうから」St. Nicholas Centerより引用)

 

しかしながら、2011年に行われた抗議集会の影響で、それ以降に開催されるシンタクラース祭ではオランダ各地で同様の抗議集会が大規模に、そして時には暴力的に行われるようになってしまいました。

そして、シンタクラース祭を楽しみに待っている子供達に対して、悪影響を及ぼしてしまっている負の側面が生まれてしまいました。

 

《後編》に続く。

 

参考サイト
Zwarte Piet, Wikipedia.
The Continuing Evolution of Zwarte Piet, St. Nicholas Center.
Witte Piet was in 1968 ook al een stap te ver, de Volkskrant.

 

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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