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セルビアはヨーロッパで最も人種差別が少ない国なのか?

セルビアはヨーロッパで最も人種差別が少ない国なのか?

「セルビアはヨーロッパで最も人種差別が少ない国なのか?」

このタイトルを読んで驚く人もいるかもしれません。または、日本人にあまり馴染みのない国であることから、ピンと来ない人もいると思います。

セルビア共和国は、1990年まで存続した旧ユーゴスラヴィアの一ヵ国であり、バルカン半島に位置する人口約700万人の小さな国になります。

※セルビアやセルビア人に関する詳細は、以下の記事を参照して下さい。

 

今回の記事では、かつて約1年間セルビアで留学生活をした私の体験談も含めて、セルビア国内における人種差別の状況やそれを巡る問題を解説しながら、セルビアはヨーロッパで人種差別が最も少ない国なのかどうか検証してみようと思います。

まず始めに、今回の記事を執筆する契機についてお話ししたいと思います。

 

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記事を執筆する契機

今回この記事を書こうと思った背景と、タイトルを「セルビアはヨーロッパで最も人種差別が少ない国なのか?」とした理由には、以下のような2つの契機があります。

 

セルビアがヨーロッパで最も人種差別が少ない国と明らかにした調査結果

ハーヴァード大学が発表したヨーロッパの人種差別度合マップ

ハーヴァード大学が発表したヨーロッパの人種差別度合マップ 出典:https://figshare.com/

上記のヨーロッパの地図は、各国の人種差別度合を数値化したものを色付けしたものになります。図上部の色パラメータから確認してみると、濃い青色になればなるほど数値は低く、反対に濃い赤色になればなるほど数値は高いことを表しています。

この人種差別度合を数値化した調査結果は、米国ハーヴァード大学が13年間(20022015年)に渡って行った集計になります。そして、潜在的連合テスト(Implicit Association Test)による心理学的・科学的な手法が使われています(詳細はこちらの公式サイトを参照)。

この調査結果ではセルビア国内の人種差別度合の数値は0.298であり、この数値結果はセルビアがヨーロッパで最も人種差別が少ない国であることを指しています。

※参考までに私が現在居住するオランダは、0.357青色数値、最も人種差別度合の数値が高い国はチェコ(0.447)となっています。

 

しかしながら、この研究結果を見た私は違和感を感じました。なぜならば、セルビアで留学生活していた際に、「人種差別」と捉えられる出来事に頻繁に遭遇していたからです。

 

セルビア女子バレー代表による「つり目」ポーズの集合写真

バレー女子セルビア代表の問題となった集合写真

セルビア女子バレー代表の問題となった集合写真 出典:https://www.usatoday.com/

来年2018年に日本で開催される世界バレー選手権本選に出場が決まった試合後(2017年5月29日)に、セルビア女子バレー代表が「つり目」ポーズをしながら集合写真を撮影しました。この行為が、日本人またはアジア人に対する人種差別なのではないか?と問題視されて、話題となっていました。

この出来事は、米国メディアが取り上げたことがきっかけとなり、日本国内の様々なメディアが取り上げ始めて、Twitter上などでもセルビア代表の行為を非難する人が多い印象を受けました。その一方で、セルビア国内における人種差別の状況に関心を示す人もいたために、今回の記事を書いてみようと思った一つの契機となります。

 

この行為に関して、セルビア人の妻にこのポーズが行われた背景を考察してもらうと、

「彼女たちはこのポーズに人種差別的な意味合いを込めているのではなく、子供時代に友人と遊んだ冗談の延長線上の感覚でやっていると思う。子供時代にアジア人のような細い目にどうやったらなれるのかという冗談遊びが一時流行っていたこともあるから。1990年代前のセルビアでは、アジア人を見かけることが珍しく、子供たちには目の形状が異なる外見に好奇心があったと思う。だから、目の両端を引っ張り続ければ、アジア人が持つ細い目を持つことができるという噂もあったりした。」

この考察は、妻がこのポーズまたは行為を擁護・正当化しようとしているわけではありません。妻自身は、この行為をアジア人に対して人種差別的であると捉えています。

 

以下では、セルビア国内における人種差別の状況を解説していくに当たり、アジア人とロマ人に対する状況を例に挙げて進めていきたいと思います。

 

アジア人

首都ベオグラードを観光する中国人観光客

首都ベオグラードを観光する中国人観光客

私が人種差別をするわけでは全くありませんが、一般的にセルビア国内には中国人に対する偏見や差別意識は存在します。例えば、「中国人は嫌いだ」と堂々と公にするセルビア人も多々います。

 

ベオグラード市内に設置された観光案内板には中国語表記もされている

ベオグラード市内に最近設置された観光案内板には英語の次に中国語表記もされている

セルビア国内に居住する中国人は約2万人弱とされており、セルビア国内で目にするアジア人の多くは中国人と言っても過言ではありません。また、最近になって、ベオグラードは中国人観光客に人気な観光地になりつつあり、昨年には約2万人以上の中国人観光客が訪れたとされています。

その影響で、セルビア人が国内でアジア人を見かけた時に、彼(彼女)が日本人であっても中国人であると認識するセルビア人の割合は非常に高いです。例えば、私がセルビアで留学生活を送っている際にベオグラードの街中を歩いていると、すれ違いざまに「キネズ Kinez」(セルビア語で中国人の意味)と私に聞こえるように言ってきたりすることが多々ありました。

 

では、なぜセルビア人は中国人に対して偏見や差別意識を持っているのでしょうか?

そもそもヨーロッパ諸国の大部分では、文化の相違や中国人文化の理解の低さから差別されやすいとよく耳にしますが、それ以外にもセルビアで中国人が差別される理由があります。

 

中国人が華僑としてセルビア国内に移住してきたのは1990年代後半であり、最近の出来事になります。当時のセルビアは旧ユーゴ紛争の影響でNATOによる空爆や西側諸国からの経済制裁を受けていたこともあり、多くのセルビア国民は苦しい生活を送っていました。

そして、2000年に入ってミロシェヴィッチ独裁体制が崩壊し、その後民主化プロセスを歩んできたものの経済復興は進まずに、現在になってもヨーロッパの中でも最貧国のうちの一つと言える経済状況です。そのため、セルビア国内の失業率は約40%、若者に限ってみれば約50%に達していると言われています。

 

ブロック70にある中華センター

ブロック70にある中華センター 出典:https://rentastan.com/

そうした困難な経済状況が続くセルビアで、1900年代後半に華僑としてやってきた中国人たちは自分たちのコミュニティーを強化・拡大させていきました。例えば、ベオグラード市街には「ブロック70」(別名:中華センター)と呼ばれる区画があり、そこで彼らの多くは商売を営んでいます。

自分たちのコミュニティーを通じながら商売繁盛している中国人がいる一方で、国内の不況の影響で無職のセルビア人たちは「彼ら中国人が俺たちの仕事を奪っている。彼らのせいで、俺たちは無職だ」と勘違いし始めて、中国人に対する偏見や差別が強まったという話があります。

 

その一方で、セルビア人が日本人に対して抱く感情は、中国人に対するそれと真逆になります。

日本政府から援助されたバス。「日本国民からの寄付」と記されている。

日本政府から援助されたバス。「日本国民からの寄付」と記されている。

もともとセルビア社会で日本文化に対する関心から、日本人に対して好意的な印象を持っているセルビア人がいたと思いますが、それに加えて別の出来事も関係していると思います。

 

それは、旧ユーゴ紛争後に日本政府がセルビアに対して経済的・物質的援助(総額6億円強)を行ってきたことです。上写真のようにベオグラード市内を走るバスは日本政府から寄付されたものであり、バスの横には「日本国民からの寄付」と大きく書かれています。

実は、日本政府だけでなく中国政府もセルビアの復興支援を行っています。例えば、NATO空爆の被害を受けた橋の修復作業であったり、教育機関への資材援助などがありました。しかしながら、こうした復興支援を知っているセルビア国民は非常に少ないです。

その一方で、日本政府から寄付されたバスに書かれたメッセージは、多くのセルビア人が日常生活で頻繁に目にすることから、一種の「広告」として働いています。そのため、多くのセルビア国民は日本からの援助を知っており、日本国・日本人に対して恩義を強く感じています

このことも、日本人に対して好意的な印象を抱いている理由の一つでしょう。

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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