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セルビア人居住区側から見る「コソヴォ」《後編》

セルビア人居住区側から見る「コソヴォ」《後編》

今回の記事は、『セルビア人居住区側から見る「コソヴォ」《前編》』の続きとなります。

 

前編の物語を読まずとも後編の内容を理解できるかもしれませんが、まず前編を読んで頂くことをオススメします。

前編の物語では、セルビア人の友人に「コソヴォへ行く」ことを話した際の反応やベオグラードからコソフスカ・ミトロヴィツァまでバスで移動した際のエピソード、セルビア人居住区のコソフスカ・ミトロヴィツァに降り立った時の第一印象を述べています。

 

後編の内容も前編と同様に、

私が2012年7月にセルビア人居住区のコソフスカ・ミトロヴィツァ(アルバニア語:ミトロヴィツァ)を訪れた時に感じた印象と体験談をまとめたいと思います。

この記事の目的は、セルビア人居住区側から見た「コソヴォ」の状況や様子を多くの人に知ってもらうことです。多くのメディア記事や個人の旅行記事では「アルバニア人側から見たコソヴォ」が支配的であり、セルビア人居住区側から見たコソヴォに関する情報がほとんど見かけられないことが一つの動機になっています。

 

では、後編の物語を始めます。

 

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セルビア人居住区とアルバニア人居住区を分断するイバル川にかかる橋

セルビア人居住区とアルバニア人居住区を分断するイバル川にかかる橋

セルビア人居住区とアルバニア人居住区を分断するイバル川にかかる橋

コソフスカ・ミトロヴィツァ(アルバニア語:ミトロヴィツァ)には、1999年のコソヴォ紛争が終わって以降に、上記の画像のイバル川にかかる橋がセルビア人居住区(北側:上記の写真手前)とアルバニア人居住区(南側:上記の写真奥側)と両民族を分断しています。

 

セルビア人居住区側からの橋の入口に積み重ねられた瓦礫の山

セルビア人居住区側からの橋の入口に積み重ねられた瓦礫の山

セルビア人居住区側(北)からの橋の入口には、上記の画像のように大量の瓦礫の山が積み重ねられていて、自動車が通過することが不可能な状況となっていました*。

この大量の瓦礫の山を間近で見て、両民族を分断する象徴的光景だと思うと同時に両民族間の緊張を強く感じ取りました

※この大量の瓦礫の山は、2014年6月頃に完全に撤去されているため現在は残っていません。

 

セルビア人居住区側の橋にはたくさんの落書きが描かれていて、下記の2枚の落書きが強く印象に残っています。

とりわけ当時の私は、ストリートアートや落書きに使用されるセルビア語の俗語(スラング)を理解できるほどの語学を持っていませんでした。そして、上手く理解できない落書きが多々あったために、以下の2つの落書きだけが理解できたと言ってもいいかもしれません。

「コソヴォはセルビアの領土だ」と橋に書かれた落書き

「コソヴォはセルビアの領土だ」と橋に書かれた落書き

1枚目は、コソヴォがセルビア共和国からの独立が現実化し始めた2008年頃から頻繁に使われ始めたスローガン「コソヴォはセルビアの領土だ」の落書きになります。このスローガンは、現在も多くのコソヴォ独立反対者や民族主義者、セルビア政府が使用しています。

この落書きを描いたのは、このコソフスカ・ミトロヴィツァに居住するセルビア人の若者だろうと思います。それでも、このスローガンが訴えかけるメッセージ性は、セルビアの首都ベオグラードで見るものと異なるように感じました。

コソヴォの最前線コソフスカ・ミトロヴィツァだからこそ、このスローガンはより強く、故郷への強い感情が込められているように感じました。

 

「EULEXは家に帰れ!NATOは家に帰れ」と橋に書かれた落書き

「EULEXは母国に帰れ!NATOは母国に帰れ!」と橋に書かれた落書き

2枚目の落書きは、「EULEXは母国に帰れ!NATOは母国に帰れ!」と描かれています。

EULEXとは、2008年にヨーロッパ連合がコソヴォ地域に派遣した警察・文民による支援ミッション「ヨーロッパ連合・法のミッション」のことを指しています。NATO(北大西洋条約機構)は、コソヴォ紛争の影響で同地域内の治安維持を行うために派遣されたコソヴォ治安維持部隊(KFOR)の指揮を執っています。

両組織はコソヴォ地域内の治安維持とセルビア・コソヴォ間の平和的解決を目指して、私がコソヴォを訪れた2011年当時だけでなく現在も活動を続けています。

どちらの組織も西側諸国(日本も含めて)から見れば「正義の組織」であると思います。その一方で、この落書きからだとコソフスカ・ミトロヴィツァに居住するセルビア人は、両組織に対して否定的なイメージを持っていることが分かります。

この落書きを見た私は、両組織を疎ましい存在だと感じるのは当たり前だなと思いました。

なぜならばヨーロッパ先進国や米国は「セルビア=悪」という前提から、コソヴォ紛争時にコソヴォ暫定政府側への武器・経済援助を行ったり、コソヴォ独立を援助・支持している背景があるからです。

こうした背景から、コソヴォに居住するセルビア人は両組織の中立性を疑っており、自分たちセルビア人が不公平な扱いを受けていると感じているのでしょう。

 

橋の中間地点から眺めるイバル川

橋の中間地点から眺めるイバル川

前述したようにセルビア人居住区側の橋の入口には大量の瓦礫の山が積み重なっていましたが、徒歩で通過することは問題ありませんでした。そのため、友人と橋を渡ってアルバニア人居住区側に行こうと話し合い、橋を渡り始めました。

アルバニア人居住区側の橋の入口付近には軍用車両が1台が停車し、4~5人の兵士たちが立っていました。近付いてみると、彼らの制服にはイタリアの国旗紋章が付けられていることに気が付きました。そう、彼らはコソヴォ地域内の治安を維持するイタリア人兵士たちでした。

一応確認のために彼らに「橋を渡ることは可能か?パスポートを見せる必要があるか?」と聞いてみたところ、強い訛りのある英語で「問題ない。パスポートを見せる必要はない」と答えてくれました。

 

何も問題なく橋を渡りきり、アルバニア人居住区側から橋を眺めてみると、下記の写真のような落書きが描かれていました。

「Fuck (Y) Serbia」と描かれた落書き

「Fuck (Y) Serbia」と描かれた落書き

この写真を撮ってもいいかどうか分からなかったので、友人がイタリア人兵士と会話して気を散らしている最中に撮影しました。上記の写真上部には、軍用車両と治安維持にあたっているイタリア人兵士たちの様子が少しばかり写っています。

この落書きに関しては、特別説明する必要はありませんよね?文面通りの解釈通りで、アルバニア人からセルビア人へのメッセージです。

両民族を分断する橋の両側に描かれた落書きを通して、両民族間に存在する民族憎悪と緊張を感じ取ることできました。

 

アルバニア人居住区側からの橋の光景

アルバニア人居住区側からの橋の光景

アルバニア人居住区側のミトロヴィツァでの物語もありますが、その物語は別の機会でお話ししようと思います。

上記の写真は、アルバニア人居住区側で少し観光した後にセルビア人居住区側に戻るために橋を渡る際に撮影した写真です。向かい側にセルビア国旗が見られるように、橋の反対側はセルビア人居住区なんだと見て分かりますね。

驚いたのが、橋を渡る現地の人々が多数いたことです。彼らは何のために行き来しているのか分かりません。橋が両民族を分断していても現地の人々でこの橋を行き来する人がいる光景から、2011年当時は両民族間の緊張は沈静化していきているのかなと感じました。

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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コメント

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    • 賢一
    • 2018年 6月 23日

    World Cup2018スイス対セルビア戦のシャキリの両手を胸の前でクロスさせるポーズがツイッター上で話題になりセルビアとその周辺に関する事を調べるうちにここにたどり着きました
    聞いたことはあってもほとんど知らない世界がある事に好奇心が先立ってワクワクしながら読ませてもらいました 最近は日本でも周辺国との摩擦に関する話題がテレビでも良く目につきます それでもセルビア周辺に比べればその切実さは程遠いのかも知れませんね
    対立する隣人と直に肩を触れながら折り合いをつけざるを得ない生活の中にいる様見える人々の姿に学べる事や改めて自分たち日本人を見つめ直す機会がありそうで興味深いです

執筆者のプロフィール

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フリージャーナリスト&英語・セルビア語通訳者
ブログ運営者のプロフィール

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト

オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。

お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。

大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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