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【スレブレニツァの虐殺】「平和の行進」で参加者が訴えたいメッセージとは?

【スレブレニツァの虐殺】「平和の行進」で参加者が訴えたいメッセージとは?

皆さんは「7月11日」という日が、ヨーロッパで特別な日であることを知っていますか?

 

7月11日は、ボスニア紛争中にボスニア東部の小さな街スレブレニツァで起きた悲劇「スレブレニツァの虐殺」で殺害された8千人以上のボスニア系ムスリム人男性(未成年者も含む)を追悼する記念日に当たります。

2009年にEU加盟諸国と西バルカン諸国(セルビア、ボスニア、アルバニア、マケドニア)にて、同日をスレブレツァ・ジェノサイドの記念日とすることが欧州議会にて採択されました。

※「スレブレニツァの虐殺」は、国際司法裁判所によってジェノサイド(大量虐殺)と認定されているものの、第二次世界大戦中に起きたナチス軍によるユダヤ人大量虐殺(ホロコースト)と比較してみると、多くの日本人にとって馴染みのある歴史的事件ではありません。そのため、「スレブレニツァの虐殺」で何が起きたのか知らない方は、以下の記事でまとめた内容を先にお読みください。

 

そして、2002年より毎年7月11日には「スレブレニツァの虐殺」で犠牲となった人々を追悼する記念式典が執り行われるようになり、2003年にスレブレニツァ近くの街ポトチャリに建設された記念館が建設されて以降は、記念館のあるポトチャリで犠牲者の記念式典と共に、身元確認が取れた犠牲者の遺体を埋葬する儀式も執り行われるようになりました。

スレブレニツァ近くのポトチャリで行われる追悼記念式典に合わせて、私が現在居住するオランダ政治都市ハーグでも朝から昼過ぎにかけて「平和の行進」が毎年行われています。ハーグ在住であるとともに、旧ユーゴスラヴィア地域に関心のある私は、この「平和の行進」に参加してみました。

今回は、この「平和の行進」に参加してみた感想となぜ「平和の行進」が行われるのか、その背景を当日参加した様子のレポートを含めて紹介してみたいと思います。

 

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「平和の行進」ってなに?

スレブレニツァで行われた「平和の行進2017」の様子

スレブレニツァで行われた「平和の行進」の様子 出典:https://www.fokus.ba/

「平和の行進」(ボスニア語:Mars Mira、英語:Peace March)は、「スレブレニツァの虐殺」の発生から10周年である2005年に、事件から逃れることができた市民が中心となって開始された行事となります。

スレブレニツァで毎年行われる「平和の行進」は、追悼記念式典が執り行われる前の7月8〜10日の3日間を通じて、参加者がスレブレニツァの北側に位置するネズク村から山間部の森林を通過して記念式典が執り行われるポトチャリまで行進する行事になります。

 

スレブレニツァで開催される「平和の行進」ルート図

スレブレニツァで開催される「平和の行進」ルート図 出典:http://www.bhkrf.se/

「平和の行進」の開始地点ネズクからゴール地点ポトチャリまでの道のりは、かつてボスニア系セルビア軍の攻撃から逃れようとした約1万人強のボスニア系ムスリム人たちが、同胞のボスニア系ムスリム軍支配地域であった街トゥズラへ向かうために通過した経路を引き返すものとなっています。

「平和の行進」の参加者が歩む道のりは72km以上であり、この道のりを3日間に分けて進むために、1日あたり約2025kmを進んでいきます。夜には道中の森林地帯に宿泊地点が用意されているため、参加者たちはそこで寝泊まりすることになります。

参加者にはスレブレニツァで犠牲となった家族やボスニア紛争で被害にあったボスニア系ムスリム人だけでなく、世界各国から多くの外国人が参加しており、「平和の行進」が開始されて12年目の今年には約5千人以上の参加者がいましたこちら参照)。

 

この「平和の行進」は、オランダでも2013年からボスニア紛争難民としてオランダに逃げてきたボスニア系ムスリム人*たちによって、独自の形で行われるようになりました。ハーグで行われる「平和の行進」は、ポトチャリで記念式典が執り行われる7月11日に行われ、記念日の日付11と関連させて11kmの道のりを歩みます

※ボスニア紛争中の19921995年の間にボスニアからオランダへ難民として逃れてきたボスニア国民(ボスニア系ムスリム人以外も含む)は約2万人強、紛争後に難民として逃れてきた者も含めると、その数は更に多いと思われます。あるボスニア系ムスリム人によれば、現在はオランダ国内に居住するボスニア出身の国民は約3万5千人に登り、アムステルダムやロッテルダムを中心に居住しているそうです。

 

開催場所は首都アムステルダムではなく、政治都市ハーグになります。ハーグで行われる理由には特別な背景があります。ハーグには「スレブレニツァの虐殺」だけでなく一連の旧ユーゴ紛争の戦犯者を裁く旧ユーゴ国際戦犯法廷があると同時に、ハーグは国際法や国際平和に歴史的に深い繋がりがある街だからです。

そして、オランダで「平和の行進」を行う意義が他にあります。それは、ボスニア系セルビア軍によって包囲されたスレブレニツァで治安維持とボスニア系ムスリム人の保護に当たっていた国連平和維持軍はオランダ軍であり、彼らオランダ軍は助けを求めるボスニア系ムスリム人を「見捨てる」こととなりました。

このオランダ軍の行動に対して、「スレブレニツァの虐殺」被害者家族は怒りを表しており、オランダ軍およびオランダ政府に対して裁判を起こす経緯に繋がっています。先日オランダの裁判所は、オランダ政府は「スレブレニツァの虐殺」に一部責任があるとの判決を下し、今後被害者家族に慰謝料支払いの手続きが行われていくと思われます。

 

「平和の行進」の概要はここまでにして、2017年7月11日にハーグで行われた「平和の行進」の感想とレポートを以下でまとめてみます。

 

ハーグで行われた「平和の行進」の様子

「平和の行進 2017」

「平和の行進 2017」 出典:http://www.marsmira.org/bs/

ハーグで行われる「平和の行進」の存在は、これまで全く知りませんでした。しかしながら、「あなたにおすすめのイベント」としてFacebook上に登場したために偶然にも知りました。そのため、Facebookのおかげで「平和の行進」に参加することできたと言っても過言ではありません。

参加資格は特になく、参加料も無料になります。また事前に参加登録することも必要なく、「平和の行進」が行われる当日に開始地点であるスポーツセンターの駐車場に集合するだけです。

 

開始地点:スポーツセンターの駐車場

ハーグで開催された「平和の行進2017」集合地の様子

ハーグで開催された「平和の行進2017」集合地の様子

「平和の行進」の集合場所であり開始地点でもあるスポーツセンターの駐車場に集合時間である9:30頃ちょうどに行ってみると、多くの人がすでに集合していました。当日は平日火曜日であったにも関わらず、これだけ多くの人が集まるとは予想していませんでした。公式の参加者数は不明ですが、200名ほどの人々が参加していたと思われます

駐車場奥に運営側のブースがあり、「平和の行進」参加の旨を伝えると運営側は私の存在に驚いていました。そもそも、日本人が参加することは初めてであると同時に、私がボスニア語を話しているからです(正確にはセルビア語であり、ボスニア人が話す方言やアクセントは使いません)。

 

「平和の行進」参加者に無料で配布されるTシャツ

「平和の行進」参加者に無料で配布されるTシャツ

私が参加する背景を一通り説明して、周りの人から驚きの声が聞こえるものの、「平和の行進へようこそ!」と歓迎してもらえました。そして、参加者全員に配られるTシャツを受け取りました。このTシャツの表面には「スレブレニツァを絶対に忘れない」という言葉が大きく印刷されています。

 

開会式で挨拶をする在蘭ボスニア大使

開会式で挨拶をする在蘭ボスニア大使

10時過ぎ頃になって開会式が始まりました。運営側の代表がボスニア語とオランダ語で「平和の行進」を行う背景を簡単に説明し、その後に在蘭ボスニア大使の挨拶が行われました。

ボスニア大使はオランダ語が話せないようなので、英語で簡単に挨拶をした後にボスニア語で「平和の行進を行う意義」と「スレブレニツァの虐殺を風化させてはいけない!」と力強く発言していたことが脳裏に焼きついています。

 

「平和の行進」で先頭に立つ子供たちが掲げる弾幕

「平和の行進」で先頭に立つ子供たちが掲げる弾幕

その後、定刻通り10時半から「平和の行進」が開始されました。「平和の行進」の先頭には、ポトチャリで行われる今年の記念式典で埋葬される71人の被害者の顔写真が映った弾幕を子供たちが歩んでいき、その後ろを他の参加者が続いていく形になります。

 

森林の中を歩んでいく「平和の行進」参加者たち

森林の中を歩んでいく「平和の行進」参加者たち

最初の道中は、森林の中を行進していきました。

ハーグで開催される「平和の行進」では、3つのチェックポイントがあります。それは、①スフェニンゲン刑務所、②旧ユーゴ国際戦犯法廷、③平和宮になります。

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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