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【連立政権が必須?】オランダ内閣が組織される流れを徹底解説!

3月15日の下院(第二院)議会総選挙が行われるオランダでは、投票日まで残り1週間あまりとなってきました。通常であれば、オランダの選挙は日本をはじめ世界各国のメディアが大きく取り上げるわけではないものだと思いますが、今回の選挙は取り巻く国内外の状況がこれまでと大きく異なるために非常に注目を浴びています。

第一に、ヨーロッパ連合(EU)の存在に疑問視が高まり、EU発足から史上初めて離脱国が出てしまったこと。2016月にイギリスで行われたEU離脱を問う国民投票の結果、EU離脱が決定しました。

第二に、欧州主要国で台頭する右派政党に後押しする流れが生じたこと。同年11月に行われたアメリカ大統領選挙で反移民政策・米国一国主義を掲げていた共和党トランプ候補(当時)が大統領になりました。

第三に、移民に寛大で自由主義国家として有名なオランダで、右派政党が台頭していること。反イスラム・反EUを掲げ、過激な発言を繰り返すために「オランダ版トランプ」とも評されるヘルト・ウィルダースが党首として率いるオランダ自由党(PVV)への支持率が伸びています。特に、アメリカ大統領選挙の結果でトランプ新大統領が決定した時期から、オランダ自由党への支持率は急増していき、ピーク時には下院議会の全150議席中32議席(全体の約21%)を獲得する最も高い支持率を受けていました。

 

では、支持率が急増していたオランダ自由党がもし今回の下院議会選挙で最多の議席数を獲得して、党首ヘルト・ウィルダースが首相になったらどうなってしまうのかと不安視する人も多いかと思います。しかしながら、オランダが採用する選挙制度と内閣の組織の仕方の影響で、オランダ自由党は政権与党にもならないし、党首ヘルト・ウィルダースも首相にはなることが出来ないとされています。

今回は、オランダでの内閣の組織の流れを徹底解説しながら、その理由を説明したいと思います。

 

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オランダ自由党への支持率の低迷

冒頭で、オランダ自由党が最も高い支持率を得ていたと述べましたが、徐々にその状況が変わってきているため、現在の状況を説明します。

最新の世論調査(3月2日)では、下院議会第1党となる可能性があると言われていたオランダ自由党(PVV)への支持率も陰りが見え始め、議席数24%の支持率に落ちています(この世論調査で最多議席数の支持率を受けているVVD自由民主国民党は現在の下院議会で第1党、政権与党となっています)。

オランダ選挙の世論調査

オランダ選挙の世論調査 出典:ipsos-nederland.nl

 

その一方で、現地ニュースサイトが報じることによれば、2012年に行われた前回の下院議会選挙では約39%の有権者がどの政党候補者に投票するのかを投票日1週間前に決めていた。また、1月末の時点で約70%の有権者がどの政党候補者に投票するのか分からないと述べ、約28%の有権者のみが既に決断していると報じています(詳細はこちら)。

また、昨年のアメリカ大統領選挙前に、大方のメディアは共和党トランプ候補の敵対候補であった民主党ヒラリー・クリントン候補が無難に勝利すると報じていたこともあり、選挙戦前の世論調査があまり当てにならない時代となってしまっていることを指し示しています。

こうした要素を考慮するならば、最新の世論調査ではオランダ自由党の支持率が低迷しているものの、蓋を開けてみれば同党が最多の議席数を獲得し、議会第1党となる可能性は全く否定できません。

しかしながら、オランダの下院議会選挙で留意しなければならない点があります。それは、必ずしも議会第1党=政権与党ではないことです。つまり、オランダ自由党が今回の選挙で最多の議席数を獲得し、議会第1党となっても自動的に政権与党となるわけではありません。それは、オランダが採用する下院議会選挙の仕組みと内閣の組織の方法に理由があります。

そのため、冒頭でも述べたように反イスラム・反EUを掲げるオランダ自由党が議会第1党となっても、政権与党にはなれずにオランダの国政に大きな影響は与えられないと見られています。

 

以下では、オランダの内閣の組織の仕方を説明していきます。その前に、まずはオランダの選挙制度の仕組みを理解する必要があります。簡潔に説明するならば、オランダは選挙制度として政党名簿比例代表制を採用しているために多くの政党が議席を獲得することが出来ることになっています。

この選挙制度に関して、詳細に関しては下記の記事を参照してください。

 

選挙戦終了後の内閣の組織

内閣を組織する動きは、選挙結果が分かり次第に始まります。最終的な目標は、次期4年間のオランダの国政を治める各省の大臣と副大臣から構成される新内閣を作ることです。

前章で簡潔に述べたように、オランダが採用している政党名簿比例代表選挙制度の影響で、多くの政党が混在することになる下院議会では1つの政党だけが議会総議席数(150議席)の過半数(76議席)以上を選挙で獲得することは非常に困難であり、歴史上見てもこれまで起きていません。

そのため、政権与党になる条件である総議席数の過半数以上を構成するためには、他の複数の政党と連立政権を組んでいく方法しか残されていません。つまり、オランダではある政党が下院議会議員選挙で最多議席数を獲得しても、他政党と組んで総議席数の過半数以上となる議席を占める連立政権を成立させなければ、内閣の長である首相に党首を選出できないし、政権与党にもなれないということです。

この点がオランダ自由党が政権与党にもなれないし、党首ヘルト・ウィルダースが首相にもなれない大きな理由です。なぜならば、どの主要政党もオランダ自由党と連立政権を組むことを否定しているからです。例えば、3月15日の下院議会選挙でオランダ自由党が30議席を獲得したとしましょう。ということは、オランダ自由党が政権与党となるためには残り46議席必要になります。その条件を達成するためには、合計46議席を保持する他の複数政党と連立政権を組まなければなりません。

 

では、オランダではどのようにして他政党と連立政権を組んでいくのか、以下で詳しく見ていきましょう。

 

連立政権を組む過程

連立政権を組む過程は、様々な政党同士が以下のような案件に関して交渉協議を行っていきます。

  • どの政党が連立政権を組む準備が出来ているのか
  • どのようにして様々な政党が掲げる異なる政策や主義を1政党のそれらに組み合わせるのか=連立政権合意
  • どの政党にどの各省大臣や副大臣の要職を分配するのか
  • どの人物が大臣や副大臣の要職に従事するのか

連立政権を組む過程の交渉が非常に複雑であるために、選挙に勝利するよりも「組閣」に勝利することの方が重要だとも言われたりしています。そのため、この連立政権を組む過程に必要となる協議や最終合意までの道のりが多くの時間を要すことが多く、2010年に発足したルッテ内閣成立までには総選挙から127日を要していました。

それぞれの連立政権を組む過程には議論される内容、過程の期間によって様々な形態があるものの、主に以下の5つの段階に分けられます。

 

①連立政権を組む政党の調査

オランダ国王(または女王)は連立政権を組む過程で、ある役割を2012年まで保持していました。その役割とは、オランダ国王(または女王)が様々な助言を受けた後に数名の専門家を指名し、新しい内閣が成立するためにどのような選択肢があるのか彼らに模索させることでした。しかしながら、現在はこの役割は消滅し、別の方法が取られるようになりました。

選挙が終了次第すぐに下院議会は討論会を開くよう指示します。この討論会では下院議会の正式な指示の下、新しい内閣を組織する選択肢を調査し、”Informateur(組閣調査者)”と呼ばれる各政党に幅広く見識のある専門家*を指名します。指名された専門家は、どのような選択肢が新しい内閣の組織に現実的であるかを調査します。そして、この専門家が調査を完了すると、下院議会は”Formateur(組閣担当者)”と呼ばれる組閣を行う中心人物を指名します。この中心人物には新内閣の長になる首相が選出されます。

※”Informateur”は複数指名可能で、これまでは選挙で最多もしくは多くの議席数を獲得した政党候補者である政治家が指名されています。

 

②連立政権を組む政党の候補選び

Informateur(組閣調査者)は選挙結果の状況を踏まえて、どの政党が連立政権の合意に向かって上手く交渉できそうなのか、反対にどの政党が新政権に好ましくないのかを確立させます。こうした確証を得るまでに、調査者は様々な政党の党首や相談役と協議を重ねます。最終的に調査者は可能性のある2~3政党を選出したリストを作成します。

 

③連立政権の合意書の作成

調査者が選出した2~3政党は連立政権の合意に向けて互いに協議を進めていきます。調査者が議長となって進められるこれらの協議は、長期間に渡って行われる事案になることが多々あります。なぜならば、政党同士が様々な事柄に関して過度に議論を重ねようとするからです。多くの連立政権に関する詳細な合意は、この時点で取り決められます。例えば、2012年の選挙後に取り決められた第2次ルッテ連立政権の合意書は、80ページの厚さにも及んだと言われています。

 

④政府の要職を政党ごとに分配

こうして連立政権を組むことが可能である政党同士が連立政権の合意書に同意すると、大臣や副大臣の職務をどのように分配するのか交渉します。この交渉は労力を要する可能性があります。なぜならば、要職ごとに政権を構成する重要性が必ずしも同じではないからです。

財務大臣や経済大臣、社会・雇用大臣、内務・オランダ王国総務大臣といった要職は、一般的に最も重要な要職として見なされています。そのため、連立政権を組む政党は出来る限り多くの重要な要職を担えるよう努力します。

例えば、健康福祉に力を注いでいる政党であれば、健康・福祉・スポーツ大臣の要職を喜んで受け入れるでしょう。また、ある政党が特定の要職に大臣を送り込むことができた場合は、その副大臣には別の政党から選出されることがよくあります。

 

⑤政府の要職を個人ごとに分配

最後の段階が、どの人物が大臣や副大臣の要職に従事するのか決断する作業となります。実際には、これまでに説明した③~⑤の段階は、同時進行で行われる傾向があります。

例えば、ある政党が特定の要職を獲得するために尽力している場合、政党間で合意書の内容を微調整したり、要職を交換したりすることが発生する場合があります。なぜならば、その政党はすでに希望する要職に送り込む良い人材がおり、妥協や交換をしててでも手にしたい要職があるからです。

 

内閣の発足

すべての内閣の要職に対する候補者がすべて任命されると、新政権は”Constituerend beraad(予備会議)”を開きます。この会議では、任命されたすべての閣僚が最終的な連立政権の合意書に正式に承認します。

その後すぐに、新内閣の閣僚はオランダ国王(または女王)によって認証を受けます(これをもって正式に発足)。そして、新政権はオランダ国王(または女王)とともにデン・ハーグ市内の”Haagse Bos(ハーグの森)”内にあるオランダ王室宮殿”Huis ten Bosch palace(ハウステンボス宮殿)”の表階段にて、下図のような伝統的な新政権の写真撮影を行います。

バルケネンデ第4次政権発足時の写真(2007年)

バルケネンデ第4次政権発足時の写真(2007年)

 

まとめ

オランダ自由党(PVV)党首ヘルト・ウィルダース

オランダ自由党(PVV)党首ヘルト・ウィルダース 出典:Daily Express.UK

これまで述べてきたように、反イスラム・反EUを掲げるオランダ自由党(PVV)が最新の世論調査で明らかになった支持率の低迷とは反対に、3月15日の選挙投票日の結果を開けてみると最多議席数を獲得して議会第1党となったとしても、全議席数の過半数を超える議席を獲得することは現実的に起こり得ない・連立政権を組む政党がいない点を考慮すると、オランダ自由党が次期4年間の政権与党になることは考えにくいでしょう。

しかしながら、ヨーロッパへ「愛国主義の春」の来訪を唱えるオランダ自由党党首ヘルト・ウィルダースの今回の選挙の躍進次第では、今後選挙を控えるフランスやドイツに大きな影響を与えることは懸念されます。特に間近に迫ってきているフランス大統領選挙に出馬している右派政党の国民戦線党首マリーヌ・ル・ペン候補の後押しになり得るでしょう。

こうした国外への影響を考慮してみても、今回のオランダ下院議会選挙は非常に注目すべきことは明らかです。今回のオランダにおける内閣の組織の流れを知った上で、3月15日に行われる選挙とその後の連立政権を組む過程を追ってみましょう。

 

参考資料
Politics in the Netherlands, ProDemos, Den Haag, 2013.

 


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オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト

オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。

お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。

大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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