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【世界ワースト3位】南米のスリナム共和国での自殺死亡率が高いのはなぜか?

スリナム共和国の国旗

厚生労働省が世界各国の自殺死亡率(人口10万人当たりの自殺者数)を比較分析し、日本はワースト6位(10万人当たり19.5人)であり、先進国の中でも最悪レベルだと毎日新聞が報じています(こちら参照)。

自殺死亡率ワースト10位の国々

自殺死亡率ワースト10位の国々 出典:毎日新聞(アクセス日:2017年5月19日)

 

日本で自殺者数が多いことは以前から国内外で周知の事実であるために特に驚きもしないニュースですが、東欧諸国がワースト上位国に占めている中で、南米に位置するスリナム共和国がワースト3位(10万人当たり24.2人)に入っていることに違和感を感じました

南米の国民性と言えば、多くの国民がラテン音楽とともにダンスを踊っている陽気なイメージが強く、「自殺」とは無縁のような国柄を連想しますこれは、私だけでなく多くの人も同じように違和感を感じているのではないでしょうか?

 

現在私が居住しているオランダ王国とスリナム共和国は、実は歴史的に繋がりが強い関係があります。そのため、オランダ本国には多くのスリナム系オランダ人が居住しています。そうした背景から、個人的にもスリナム共和国とスリナム人に注目しています。過去の記事でも、彼らスリナム系移民に焦点を当てた記事も書いています。

陽気な国民が多いイメージの南米に位置するスリナム共和国で自殺率が高いのはなぜか。その理由を探ってみると、さまざまな社会的要素が重なっていることが分かりました。

今回は、南米のスリナム共和国で自殺率が非常に高いのはなぜか?その背景をまとめてみます!

 

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スリナム共和国ってどこ?スリナム人ってなに?

スリナムの地図

スリナム共和国は、かつてオランダ王国(当時ネーデルラント連邦共和国)の植民地であったことからオランダ語を母国語としています。そして、第二次世界大戦後にオランダ王国から自治権を獲得したスリナム共和国は、同時にオランダ国籍を取得し、オランダ国内に自由に居住する権利を得ました。

この影響で、多くのスリナム人がオランダ本国に移民し、現在では35万人(オランダ全人口のうち約2%)が首都アムステルダムを中心に居住しています。

 

オランダ植民地時代のスリナムには、他の植民地支配の地域からアフリカ系黒人奴隷やインド人契約労働者、ジャワ民族などが連れてこられ、重要な労働力となっていました。この影響で、現在のスリナム共和国は非常に多様な民族が混在する国家となっています。多様な民族国家を表すものとして、以下の資料を見てもらえると明らかです。

(資料1
2004
年国勢調査による構成民族:アフリカ系(32.4%)、インド系(27.4%)、ジャワ系(14%)、混血民族(12.5%)、スリナム原住民(3.7%)他

(資料2)
2012
年国勢調査による宗教的帰属:キリスト教(48.4%)、ヒンドゥー教(22.3%)、イスラム教(13.9%)他

 

※より詳細なスリナム共和国・スリナム人の概要に関しては、以下の記事を参照ください

※スリナム系オランダ人はサッカーオランダ代表の世界的な躍進に欠かせない存在であることは注目に値します。

 

 スリナム共和国での自殺に見える民族的特徴

スリナム共和国の自殺死亡率(1995~2014年)

スリナム共和国の自殺死亡率(1995~2014年) 出典:The silent suicide epidemic in Suriname’s Indian community can only be overcome through cultural change, LSE.

上記の表は、19952014年までのスリナム共和国での自殺死亡率(10万人当たり)をグラフ化したものになります。

この20年間の推移を見てみると、自殺死亡率が2006年より急増して以降、2008年を除いて「10万人当たり約25人」前後の割合が続いています。このことから、厚生労働者が発表した自殺死亡率ワースト10ヵ国(2014年)にスリナム共和国が入っていることは一時的なことではなく、継続している社会問題であることが分かります。

 

上記の自殺死亡率を表したグラフから見えないもののスリナム共和国での自殺死亡率には、ある民族的特徴が見られます。

前述したように、歴史的背景からスリナム共和国には多様な民族が混在しており、その民族の中でインド系スリナム人(主にヒンドゥー教徒)が全体の自殺者数のうち約70%も占めているとのことです。

多くのインド系スリナム人が自殺をしてしまう一般的な理由には、貧困やアルコール乱用、家庭内暴力、就業機会の少なさ、不景気、簡単に農薬が入手できること等が挙げられています。

インド系スリナム人の多くは農業に従事しており、簡単に農薬が入手できるために農薬接種による自殺が最も一般的な方法(全体の約70%)とされています。

 

では、なぜヒンドゥー教徒であることが多いインド系スリナム人に自殺者数が圧倒的に多いのでしょうか?その背景には、ヒンドゥー教とインド系スリナム人が構成する社会に関連があるとされています。

 

インド系スリナム人社会と自殺の関連性

スリナム共和国のヒンドゥー教寺院

スリナム共和国のヒンドゥー教寺院 出典:http://wanderingtrader.com/

インド系スリナム人の研究を行っている学者Bhavik Doshiの調査によれば、スリナム共和国におけるインド系スリナム人の社会では、自殺による社会的汚名が更に強まっているとされています。

ヒンドゥー教はとりわけ社会生活への影響力が強いため、宗教的・倫理的価値観が優勢である状況によって、神からの贈り物である神聖で大切な命を絶つことは受け入れられないものとなっています。

このように宗教的・倫理的価値観が自殺をタブー視する社会がより強くなっている一方で、自殺死亡者率が減らずに高い水準で推移しているのはなぜでしょうか?

 

同学者によれば、インド系スリナム文化の価値観は、家族や友人、地域社会からの期待に応えなければならないという大きなプレッシャーを作り出しているのことです。このプレッシャーとは、社会的地位と富に相応する「仕事を見つけること」と「結婚をすること」である場合が多いようです。

こうした期待に応えられないインド系スリナム人は無価値であると捉えられ、彼らの人生は個人的および社会的失望として考えられてしまう傾向があります。

 

また、自殺死亡率の問題がインド系スリナム人社会の中で持ち上げられる際には、明らかに2つの反応があるとされています。

片方は、自殺死亡率が高いことを認識し、その問題を解決しようと努める側(現代的)。もう一方は、彼らの社会に問題が存在していることを完全に認めようとしない側(伝統的)です。

実は、後者(伝統的)の問題を認めようとしない伝統的姿勢は、真新しいものではないとされています。

19201960年代にかけて、家族によって強制的に結婚させられた若いインド系スリナム人女性の間で自殺が流行していました。この社会問題に対して、いわゆる政治エリートたちは、この問題を公にするのではなく、インド系スリナム人社会を非難する危険性を避けることにしていました。

なぜならば、オランダ王国から独立しスリナム共和国として建国していく重要な時代において、社会と政治エリート間の衝突を避けようとしていたからです。

 

こうした国内の状況から、自殺行動と自殺防止策に関する研究は2000年代になってからようやく始まりました

スリナム共和国政府が国内の自殺問題を解決しようとしてこなかった姿勢は、事態が手に負えない状況に陥ってしまうまで何の手立てもなされずに今に至ることを招いています。このことから、多くの自殺事件は行政側で記録されずに、インド系スリナム人のヒンドゥー教徒社会の中で誰の目にも触れられずに静かに跡だけが残っていたことになります。

 

まとめ

上述してきたように、インド系スリナム人社会で自殺者数が多い社会問題の背景には、所属する地域社会からのプレッシャーと大きな関係があることが分かります。

 

この「所属する地域社会からのプレッシャー」・・・多くの日本人も理解できるフレーズではないでしょうか?

 

日本では昨年末に電通の女性社員が投身自殺を図り、残念ながら将来溢れる命を絶ってしまう出来事が大きな問題となっていました。この事件の背景には、会社での長時間労働(月105時間の残業)とともに上司からのプレッシャー(日本では一般的にパワハラと分類)も女性社員を自殺にまで追い込んでしまった理由とされています。

日本の戦後社会では、勤勉と犠牲が社会人の美徳とされている節があり、他の人よりも長時間働くことは素晴らしいことであるとする傾向が現在にまで残っています。現在の若者の間には、こうした意識を持つ人は少数派となってきている一方で、社会がこうした意識を持たせようとするプレッシャーは自然に発生しています。

日本では、政府・民間一同となって長年に渡り自殺問題に取り組んできた成果により、自殺死亡率は年々減ってきています。しかしながら、世界的に見ればその数値は依然として高く、世界で6番目に高い数値です。

 

近年になってスリナム共和国では、自殺の社会問題への取り組みに変化の兆しが現れ始めました。

世界保健機関からの圧力により、スリナム共和国政府が重い腰を挙げて自殺問題への取り組みを始めました。同政府が作成した計画では、2020年までに現在の自殺死亡率を10%削減する目標を立てています。

この目標通りに自殺死亡率を削減することは実際に可能かどうか不明ですが、もし実現できたならば自殺死亡率は現在の約24%から約14%となり、世界的に低い水準となります。そのため、この目標が達成できるのかどうかも含めて、今後もスリナム社会を追っていきたいと思います。

 

地理的にも経済的にも大きく離れているスリナム共和国と日本。関連性がなさそうな両国には、自殺の社会問題に似通った部分があり、両国とも政府・民間が協力して解決していかなければいけない大きな問題が存在しています。

 

参考資料
Bhavik Doshi, The silent suicide epidemic in Suriname’s Indian community can only be overcome through cultural change, LSE(アクセス日:2017/05/31
Nationaal Suïcide Preventie- en Interventieplan 2016-2020, Suriname Ministerie van Volksgezondheid(アクセス日:2017/05/31)

 

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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コメント

  • コメント (2)

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    • ケイコ
    • 2018年 7月 28日

    インド系スリナム人と記述する所、「ムスリム」と誤表記されている部分が多々ありました。

  1. ケイコさま

    ご指摘ありがとうございます。仰る通り、誤った表記がいくつかありました。間違いを修正させていただきました。

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大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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