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巻き起こるバルカン政治問題から眺めるロシアW杯2018

巻き起こるバルカン政治問題から眺めるロシアW杯2018

ロシアW杯2018が開催してから、早くも約10日間が経過しました。

まだグループステージがすべて終わっていないにもかかわらず、今回のロシアW杯ではすでに様々な問題が起きています。

こうした問題の多くは、スポーツには持ち込むべきはない政治が関係しています。そして、そのほとんどが現在も国家間・民族間の対立が続くバルカン地域の国々または民族が起こしている問題です。

 

今回の記事では、2018年6月25日までに起きたバルカンの政治問題に起因する出来事をまとめてみます。

 

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セルビア人サポーターが政治的メッセージが含まれるバナーを掲げたこと

まず最初に起きた事件は、6月17日に行われたコスタリカ代表相手のセルビア代表の初戦になります。

スタジアム内でセルビア代表を応援していたセルビア人サポーターたちが「不適切な行動をし、政治的メッセージを掲げた」という理由で、FIFAから8500ユーロの罰金制裁がセルビアサッカー協会へ与えられました。

 

セルビア代表はロシアW杯初戦のコスタリカ戦を1-0で勝利し幸先良いスタートを切れたものの、スタジアム内で応援していたセルビア人サポーターの中にFIFAの規定である「試合に政治的メッセージを持ち込まない」ルールに違反するのはないかと思われるバナーを掲げていた者が複数いました。

当初は、上記のツイートで指摘する「コソボはセルビアの領土(Kosovo je Srbija)」と書かれたバナーなどがFIFA調査委員会の調査および制裁対象となったものだと思っていました。

 

その後、セルビア各紙が報じるところによれば、FIFA調査委員会の制裁対象となった政治的メッセージが含まれるバナーとは、上記のツイート画像のようなものだったとのことです。

このバナーに描かれる紋章は、第二次世界大戦中にナチス・ドイツ軍に抵抗していた軍事組織だったチェトニック軍の一部隊「ディナール部隊」を指しています。

チェトニック軍は反ナチス闘争組織だったものの、大量のクロアチア系やムスリム系を虐殺した歴史的側面とセルビア民族主義者の間で敬愛されている側面から、対外諸国から悪い印象を持たれています。

 

クロアチア代表選手ロヴレンらが試合後にファシズム代表曲を歌う

6月21日に行われたクロアチア代表VSアルゼンチン代表戦で、歴史的な大勝利を成し遂げたクロアチア代表。

試合後のクロアチア代表ロッカールームにて、試合に出場していたロヴレンら複数の選手がクロアチアのファシズム代表曲と見なされる有名曲の一部を歌っている動画が大きな話題を呼びました。

この件に関しては、FIFAからの調査および制裁は何も起きていません。

 

1990年代に起きた一連の旧ユーゴスラヴィア紛争のうちクロアチア紛争中にに作られたこの曲は、セルビア軍の侵略から祖国クロアチアを守ろうと促す歌詞で構成されています。

クロアチア紛争中に大ヒットしたことや作曲したトンプソンが国民的バンドという人気ぶりもあり、全クロアチア人が知っているのではないかと思われるほど有名な曲です。

 

しかしながら、この曲の冒頭で叫ばれるスローガン”Za dom spremni!”(母国のために備えよ)は、第二次世界大戦中のクロアチアに存続したファシスト組織ウスタシャが使用していたものでした。

また、当時のウスタシャがナチス・ドイツと協力して、クロアチア国内に建設した複数の強制収容所にてセルビア人・ロマ人などを大量虐殺していた歴史もあることから、セルビア側から忌み嫌われるクロアチア民族主義スローガンになります。

同曲内では、歌詞内に「セルビア人民兵やチェトニックたちよ、よく聞け。我々の手がお前ら、そしてセルビアに到達するぞ」という反セルビア人感情が詰まった部分もあります。

 

コソヴォ出身のスイス代表選手がセルビアを挑発する

6月22日に行われたセルビア代表VSスイス代表戦は、試合前から誰もが予想していたような政治問題が表に大きく出てきた試合となりました。

私もこの試合を要注意カードとして注目してきましたし、試合前に別記事でその背景を詳細に説明していました。

※なぜ要注意カードなのか、なぜ政治問題が関連する試合だったのかについては、以下の記事をお読みください。

 

この試合では2-1と最終的にスイス代表がセルビア代表を後半に逆転して劇的な勝利をもたらしたものの、ゴールを決めたスイス代表のグラニト・ジャカとジェルダン・シャチリが、セルビア人の観衆を挑発するかのようなゴールパフォーマンスを見せたことが大きな問題となっています。

 

セルビアと領土問題が続くコソボ共和国出身またはアルバニア人という民族的ルーツを持つ両選手は、スイス代表として出場する一方で、自身の心の中で感じる祖国への思いが噴出して、アルバニア国旗に描かれる「双頭の鷲」サインを両手で描くジェスチャーを観客に向かって行いました。

このジェスチャー自体に政治的メッセージやセルビア人を挑発する意味はなく、アルバニア民族の誇りや愛を示すものです。

そのため、コソボや本国アルバニアだけでなくセルビア南部やマケドニア、モンテネグロ、ギリシャなどバルカン地域に広く居住するアルバニア民族がよく行うポーズになります。

ただし、問題となる点はコソボと今もなお領土問題や民族問題を抱えるセルビア、ここではセルビア人サポーターに向かって行った挑発行為なのではないかということです。

 

試合が終了してから翌日に、FIFAがゴール後に「双頭の鷲」パフォーマンスをしたスイス代表のジャカとシャチリ2選手に対する調査をFIFAが開始したというニュースが飛び込んできました。

そして、BBCニュースの報道によれば、ジャカとシャチリのゴールパフォが観衆を挑発する行為として認定された場合、次2試合の出場停止と£3800の罰金処分が下されるだろうとのことです。

 

【追記】

 

セルビア人サポーターが戦争犯罪者の顔写真付きフードを着用していた問題

初戦コスタリカ戦で政治的メッセージを掲げた理由でFIFAから罰金制裁を与えられたセルビア。次戦のスイス代表戦前には、セルビア・サッカー協会が公式声明を出して、「攻撃的なメッセージが含まれるバナーを使用しないこと」などの警鐘が鳴らされていました。

しかし、スイス代表との試合でも政治問題を持ち込むセルビア人サポーターが発見されました。

それは、ボスニア紛争時にムスリム人を大量虐殺したなどの戦争犯罪で、在ハーグ旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷から終身刑を宣告されたボスニア系セルビア人ラトゥコ・ムラディッチの顔写真が写るトレーナーを着たセルビア人サポーター5人がスタジアム内にいたことです。

※ムスリム人大量虐殺の事件やラトゥコ・ムラディッチに関する詳細は、以下の記事を参照してください。

 

ラトゥコ・ムラディッチの顔写真が写るトレーナーを着たセルビア人サポーターが訴える内容は、同氏の無罪へのサポートです。セルビア人民族主義者の中には、依然としてムラディッチを「セルビア民族の英雄」と捉える者も数多くいます。

この一件に関しても、FIFA調査委員会が調査を開始したとのことです。

【追記】

 

試合終了後にスイス国内でセルビア系VSアルバニア系の衝突が起きる

セルビア代表VSスイス代表の試合を終えた後に、試合が行われたスタジアム内でサポーター間の衝突が起きたなどのニュースは聞かれなかったものの、数多くのアルバニア系やセルビア系住民が住むスイスでは衝突が起きていたようです。

事件が起きた当時の映像は、以下になります。

 

 

それ以外にも、スイス国内ではセルビア系とアルバニア系住民間でのトラブルが多発し、警察沙汰になったことも多かったようです。

 

セルビア代表監督が主審の疑惑な判定を旧ユーゴ裁判と比較する

セルビア代表VSスイス代表の試合では、ジャカとシャチリによるゴールパフォーマンスが問題となりましたが、セルビア代表FWミトロヴィッチがペナルティーエリアにてスイス代表DF2選手に挟まれて倒されたものの、主審が笛も吹かないどころかビデオ判定(VAR)要求を断ったこともまた問題視されていました。

そんな中、セルビア代表監督ムラデン・クルスタイッチが自身のものと思われるInstagramで、疑惑の判定をした主審を批判するとともに問題発言をしました。

 

その問題発言とは、旧ユーゴ紛争の容疑者を裁いた在ハーグの旧ユーゴスラヴィア国際戦犯法廷(ICTY)を比較対象に挙げて、「同法廷でセルビア人容疑者が国際法の下で”不公平”に裁かれた」ように、「ドイツ人主審がセルビア代表を”不公平”に笛を吹いて不利な判定をした」ことを痛烈に批判したことです。

サッカーの試合で主審の判定に不満を示す代表監督はこれまでに多々いたであろうものの、その主審の判定を国際法廷のものと比較した発言は大きな問題です。

その後、FIFAからの声明があり、この発言をしたセルビア代表監督クルスタイッチに対する調査が開始されたということです。

【追記】

 

総括

以上、W杯が開始されてからたったの10日間しか経っていないにもかかわらず、バルカンの政治問題を巡ってこれほど数多くの問題が起きています。

今回のロシアW杯では応援するセルビア代表が出場していることから、私が日頃つぶやいているTwitterではセルビア代表関連やバルカン地域のチームに関連する現地語ニュースを続々と発信しています。

 

関心のある方は、ぜひ@KotaroHollandをフォローしてみてね!

 

オランダのハーグに在住しながら、セルビア(旧ユーゴスラヴィア他諸国)で起きている現状を独自の目線で発信するフリージャーナリスト。オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。


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オランダの社会文化や現地での海外生活を最前線から追いながら、かつてセルビアに留学した執筆者が、旧ユーゴスラヴィア地域の社会問題を取り上げていく。

お問い合わせは、info@kotaro-journal.comまで。

大学時代に旧ユーゴスラヴィア史を研究し、1年間セルビアに留学。旧ユーゴ史研究者に少し憧れたものの諦める。現在は、オランダ・セルビアに特化した記事を書くフリージャーナリストとして活動。

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